九 パラレルワールド術力干渉説

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【最初は暗闇の中にいた。そのとき私はすぐに、これは夢だと気が付いた。しかし、身体の感覚は指先まで研ぎ澄まされているように感じた。私はそのまま、深海をあてもなく漂うかのように、暗闇に浮遊していた。】  ふと回りを見ると既に真っ暗になっていた。俺は怖気づく暇もなく、光を発する資料を睨んでいた。少しでも集中を途切れさせてはいけない。身体の感覚は本に書いてあるとおり、まるで深海を漂っているようだ。  館長が手を上げて合図を送る。それと同時に、秀一の顔が俺の真ん前に照らし出された。秀一は目を血走らせて文字に目を落とす。 【そんな状態が続いたあと、いきなり周囲が明るくなった。と言っても、太陽の光のような澄み切った光ではない。この世に存在する全ての色を混ぜ合わせたような、禍々しい光だ。しかもそれは段々と激しく点滅し始めた。 景色が歪んでいく。それに合わせて自分の体も歪んでいくような気がした。】  秀一が加わって数秒で、俺達の体に異変が起きた。身体が溶けて、ぐにゃぐにゃになるような感覚がした。部屋が一面蛍光色に包まれる。それだけでなく、意識が朦朧とし始め、上下も左右も分からなくなった。 【不意に、目の前に眩い光に包まれる。目が痛くなるほどの閃光とともに、轟音が鳴り響いた。私はその悪夢の中で、発狂した。】  ここまで読んだとき、蛍光色の世界に、地響きのような音が広がっていった。視界が点滅し始める。体中に汗が流れていくのを感じる。手は無意識に震え、腕には鳥肌が立っている。  轟音の中に秀一の雄叫びが聞こえた。本の残りページも少ない。俺たちは、読書文明の世界に別れを告げようとしていた。
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