十 科学文明の唐木市中央図書館

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「あまり身を乗り出すと危険です」 女の声が聞こえたので、俺はすぐに体を引っ込めた。 「ご覧の通り、パラレルワールドの住民は明らかにこちらに敵意を抱いています。本当は誰にも気付かれず侵入する予定だったのですが、本の力の調整がうまく行かずに、地下室ごとこちらの世界に来てしまいました。その結果、建物に被害を及ぼしてしまったみたいです」 「建物というと、中央図書館?」 「はい。パラレルワールドの、唐木市中央図書館です。といっても、パラレルワールドの図書館の目的は娯楽なので、政治的な被害は小さいです。」  俺は改めて室内を見渡した。ここに居た者は全員避難したということか。こっちの世界の住民からすれば、俺達はテロリストなのだ。 「大変じゃないですか!調査どころじゃないですよ」 俺が震える声で言うと、後ろからぽんと肩を叩かれた。振り返ると、青木と乃木坂と、館長がいた。その後ろには、美智代たちもいる。 「大丈夫です。こういう時の対策も練ってあります。大沢さん達、リュックの中身を」  館長が真剣な表情で言ったので、俺たちは一心不乱にリュックサックをひっくり返した。館長は大量の本を一つ一つ取り上げて、頷いた。 「分かりました。皆さん、今から私が話すとおりに行動して下さい。くれぐれもミスのないように」  館長は大きな声で言った。
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