十三 きょうのようちえん

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十三 きょうのようちえん

 これは俺も読み聞かせをしたことがあるが、美智代の方が圧倒的に読むのが上手かった。俺が美智代より読むのが上手い絵本は、『きょうのあさごはん』くらいだ。 【くまくんは、どうぶつようちえんにかよっています きょうもくまくんは、うさぎさんといっしょに、ようちえんバス(ばす)にのります。 「くまくん、おはよう」 「うさぎさん、おはよう」 ようちえんバス(ばす)をうんてんするのは、ライオン(らいおん)のえんちょうせんせいです 「みんな、おはようございます!」】  幼稚園バスが現れると、俺、香澄、美智代の順に乗り込み、その後に青木、乃木坂、館長と続く。 「じゃあ、みんな、出発しますよ」  全員が小さな席に着くと、ライオンの園長先生がのんびりした口調で言う。そのとき香澄が、ライオンさんだ!と言い、本から目を離した。 「駄目だ、まだ桃太郎は続けて!」  俺が言った時には遅く、窓の外では先陣を切っていた桃太郎たち消えかかっていた。美智代と俺は必死で香澄に本を見せるが、うっかりページをめくってしまった。そこには、宝物を持って帰る桃太郎一行のイラストがあった。  ふと窓の外を見ると、金色に輝くネックレスやお皿などを乗せた担架を引いて、こちらに手を振る桃太郎がいた。その後ろでは、妖怪と警官の大乱闘が行われている。そろそろ図書委員たちが苦しそうだ。 「やばいやばい!おいライオン、さっさととばせ!」 秀一の声とともに、バスのエンジンがかかる。ライオンはバスを発進させ、悠長に左右を確認してから道路に出た。
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