十四 読書文明バス

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「連絡が来た。どうやらこの先に別の警官隊が待ち構えているらしい。ええと、あの曲がり角だ。」  図書委員には上空からの偵察という役割も課せられている。館長は通信手帳を手に、五十メートルほど前の方を指さした。危なかった。この道路はその曲がり角まで一本道なのだ。後ろのパトカーを処理していなければ、挟み撃ちになっていただろう。 「よし、俺にも活躍させろ」  俺は『俺の青春恋物語』を持って、運転席の隣に移動した。香澄がライオンにしきりに話しかけている。 「よし、見てろ……」 俺は小さく呟くと、目的のページを探した。 【「ちこく、ちこく〜!」 カオルは食パンをくわえながら、学校へと走っていた。彼女は転校初日から寝坊してしまったのだ。 カオルは、曲がり角に差し掛かった。危ない、と思った時には遅かった。カオルは、その曲がり角から飛び出してきたシュンと体当りした。 「きゃあ!」】  俺はこのシーンを、終わりまで読んではまた戻って最初から読むというのを、一気に数十回繰り返した。顔を上げた時にはもう曲がり角はすぐそこだった。だが、慌てる必要はない。バスの数メートル前に、数十人の女子高生が、パンをくわえて走っているからだ。  警官たちが出てくると同時に、彼女らは曲がり角に差し掛かる。大量のカオルは、次々と警官たちに衝突していく。  幼稚園バスは警官とカオルの集団に突っ込むと、そのまま通り過ぎた。幸い、轢き殺したのはカオルだけみたいだ。 「あとどのくらいですか?」 青木が俺に訊いた。 「ああ、あそこの横道に入れば到着だ」  俺は車内にいる全員に聞かせるように答えた。このバスが向かう先はただ一つ、俺の家だ。俺は、館長の作戦をもう一度頭でリピートした。
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