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続いてコーヒーだが、こればかりは『世界のコーヒー』でないといけない。俺は悠々とキッチンに向かうと愛読書を取り出し、十秒ほどでコーヒーを淹れた。
エスプレッソのコーヒーを手にリビングに戻ると、ソファーの上に置いてあった新聞を拾い、椅子に座った。
恐らく今の時代の人のほとんどは、新聞などという非効率なものはとっていないだろう。確かにさらに便利なものはあるにはあるが、うちは俺の要望で毎朝新聞をとっている。なぜかと言われれば答えにくいが、とにかく新聞がなくなると、なぜか無性に物足りなく感じるのだ。
トーストを2つに割って目玉焼きをサンドすると、大きく一口かじる。口の中がいっぱいの状態で、俺は新聞を見た。
一面には大きく『読書念術の暴走事故』と書かれていた。少年が小さな本を片手に、街に大きな穴を空けたらしい。写真は現場の交差点を写していた。確かに巨大な穴が空いており、奥は底抜けの闇で覆われて真っ暗だった。
俺は昨晩の秀一の事を思い出し、不安になった。あのときもっと問い詰めていても良かったかもしれない。特に根拠はないが、俺はあの晩から何か言いようのない不安を覚え始めていた。
俺は顔をしかめたまま、コーヒーを口にした。だが、いつものような深い味わいは感じられなかった。一気にコーヒーとトーストを口に詰め込むと『きょうのあさごはん』を手に取って席を立った。
何気なくその最後のページを見てみる。動物たちが皆で揃って朝飯を食べている。トーストやおにぎり、ドーナツまでもが小さな机に並ぶ中、真ん中に積まれていたのは本の山だった。動物たちはその本を囲んで、楽しそうに笑っているのだ。
俺は本棚にその絵本を入れてリビングを出た。今日中には書き上げてしまわねばならない。ところが俺はアイデアどころか、原稿を書くやる気もなくしてしまっていた。
このままではいけない。俺は意を決して、出版社に出掛けることにした。もはや錦さんに助けを求めるしかない。俺は書斎に戻ると、鞄、原稿用紙、ペンとその他最低限の持ち物を詰め込んだ。
玄関を出て向かって左側に自転車がある。俺はそれにまたがると、尻を浮かせて道へ出た。
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