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八 唐木市機密資料集
桜木館長率いる図書委員メンバーが案内してくれたのは、こ巨大な書庫施設だった。彼らはその一番奥まで行くと、ある一冊の本を取り出した。そのタイトルの文字は掠れていたが、『機密』という文字は読み取れた。
「大沢さんたちに見せても良いのですか?」
青山が館長に訊く。
「ああ、構わん。大沢さんはこれを知る権利がある」
館長がそう言うと、ゆっくりとその本を開いた。
「今から申し上げることは、絶対に他言しないようにして下さい。良いですね」
俺と美智代は目を見合わせると、小さく頷いた。
「では、実際に見てもらいましょう」
そう言うと館長は目を閉じた。そのまま十秒ほどが経ったとき、ふいに周りの景色が歪んだ。大きな本棚は空気に溶け込むように消え、代わりに粒子の粗い何かの映像が出現しはじめる。さっきまで静かだった室内に、騒音が響き渡った。
「安心して下さい、これは幻視です。いま映し出しているのは、この書物に記録されているパラレルワールドの様子です」
「パラレルワールド?」
秀一が呟く。部屋は変わらず、ランダムに変化し続ける景色に飲み込まれていく。
「この本に書かれていることを簡単に要約して話しましょう。今から数十年前、唐木市にある一人の男性がいました。その男性は作家なのですが、スランプに陥っていましたとのことです。その日もアイデアが思い浮かばず、結局床に就いてしまいました」
俺は思わず息を呑んだ。つい昨日の自分のことではないか。騒音がだんだん激しくなる。どこかで同じような音を聞いた気がする。
「悪夢を彷徨い続けたあと、気が付けば男性は広い道の上に寝転がっていたそうです。男性はすぐに異変に気が付いて起き上がりました。実は、そのとき既に彼はパラレルワールド、つまり別の世界線にいたのです」
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