十一 俺の青春恋物語

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十一 俺の青春恋物語

 元々図書館のエントランスだったであろう場所は、瓦礫に埋もれていた。割れた天井からは光が差し込む。先程の図書室に比べれば廃墟だ。  俺達はそんな場所で息を潜めて歩みを進めていた。俺の両隣では香澄を抱えた美智代と秀一が、俺の目の前では館長が歩く。そして、彼を挟むようにして青木と乃木坂が歩いている。さらにその前には、十人の図書委員が、俺達を囲むようにして列を作っている。  図書委員メンバーと俺たち大沢一家は、全員一人一冊何かの本を持っていた。俺が持つのは、自分の著作のひとつである『俺の青春恋物語』だ。俺は館長の作戦を頭の中でリピートする。心臓が今までにないくらい激しく鼓動を打っている。 「準備できました。行きますか?」 一番前を歩く図書委員が言う。館長は俺達一人一人の顔を見ると、小さく、しかし、力強く言った。 「行こう」  大きな音を立てて、図書館の入り口の扉が開かれる。外は盾を構えた大量の警察が待ち構えていた。さらにその外野の、野次馬と見られる人だかりから悲鳴が上がった。  俺は即座に『俺の青春恋物語』のラストシーンを読んだ。 【「あたしのこと、絶対忘れないでね」 カオルの声が蘇る。「忘れるかよ」と、シュンは心の中で言い返した。 いつかまたきっと会える。シュンはそう信じていた。 あれでカオルは旅立つのか。滑走路を猛スピードで走る飛行機を見ながら、思った。飛行機が滲んだ。】  僅か数秒で、警官達の真ん前にカオルを乗せた飛行機が現れた。飛行機は轟音を上げ、警官や野次馬の頭すれすれを突っ切った。飛行機はそのまま一直線に飛んでいく。  警官達はパニック状態になり、一気に隊列を崩した。
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