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十四 読書文明バス
背後から聞こえる悲鳴から逃げるように、俺達は道路を爆走していた。もちろん、幼稚園バスにしては速いという程度だが。
「よし。香澄、もういいぞ。美智代、もう少しスピード上がらないか?」
「何言ってるの。幼稚園バスがスポーツカーみたいに走ってるのなんて、想像出来るわけないでしょう!」
美智代は大声で言った。その直後に、背後からパトカーの音が聞こえた。
「大変だ、追手がきてる!」
青木が言った。俺は通路ではしゃぐくまさんを押しのけて、うしろの窓を見た。パトカーがどんどん距離を縮めてきている。さらにその上空には、ヘリが飛んでいた。
「任せて。なんとか目的地まで耐えてみる」
そう言って俺の隣に割り込んできたのは、例の本を持った秀一だった。普段の脳天気な様子とはうってかわって、真剣な表情をつくって窓の外を見ている。俺はおとなしく場所を譲った。
「……終わりだ、この……くらえ……」
秀一はなにかぶつぶつ呟いたあと、「いでよ、炎の龍!」と叫んだ。その瞬間、聞き覚えのある雄叫びが耳に飛び込んできた。あの時のなんちゃらドラゴンだ。あれが暴れればひとたまりもないだろう。
俺はとりあえず一安心して、席に戻った。ふと通路の向かい側の席を見ると、館長が何かを書いていた。
「何をしてるんですか?」
「ああ、図書委員組との連絡をね」
館長が持っていたのは、通信手帳だった。逃げるのに夢中で、すっかり忘れていた。彼らは後からバス組と合流する予定なのだ。
「あっ、来ました!」
後ろの席に座っている乃木坂が言った。俺は窓側の美智代の邪魔をしないように、立ち上がって窓の外を見た。はるか上空に、十人の人間を乗せた一反木綿が見えた。
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