十五 天才、大沢の作家論

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十五 天才、大沢の作家論

館長は穴だらけの図書館で、次のようなことを言った。 「こちらの世界の図書館を見て回ると、大沢さん、あなたの作品が多数ありました。中にはこんな本まで」  館長が手にしていたのは、一冊の本だった。それは『天才、大沢の作家論』というタイトルだった。俺は驚いて周りを見渡した。本棚にある本をざっと見回すと、すぐに大沢という文字が目に入る。 「こういう言い方は失礼かもしれませんが、こっちの世界では、大沢さんはかなりの大物みたいです。この本にも、文壇での大沢さんの影響力がいかに大きいか、いかに大沢さんの思想が天才的なものかが書かれています」  俺はなんだか誇らしい気分になった反面、読書文明の世界に生まれた自分を呪いたくなった。こっちの環境なら、俺も認められていたはずなのに。 「実を言うと、唐木市資料集は、一斉に強力な読書念術を浴びたせいで、破壊されてしまっています。もとの世界に帰る方法が無いのです。ですが私は、これはチャンスだと思っています。ぜひ、私の作戦を聞いてください」  そこから先は、『きょうのようちえん』で図書館を脱出して、追手を払うという話だった。俺は改めて、一つの図書館を管理する館長の機転に舌を巻いた。 「こちらの世界の大沢さんに会ったら、我々、読書文明の世界の住民をテーマにした小説を書いていただきます。もちろん、我々がもとの世界に帰るというシーンがあるものです。それと同時に、こちらの世界のことを教えて貰いましょう。上手く行けば、念術の暴走も解決できるかもしれません。実はこれが最も難しい課題なのです。パラレルワールドから来たと名乗る自分が、いきなり訳のわからない話をしてくるのですから。こればっかりは、天に祈るしかないです」
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