二 転生したらドラゴンの王国の勇者だった件

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二 転生したらドラゴンの王国の勇者だった件

 時計の短針はもう十一時を回っている。俺はあくびを噛み殺しながら、必死にペンを動かしていた。しかし、書いては消しての繰り返しで、なかなか原稿用紙が埋まらない。俺はついにペンを手から離すと、ベッドに飛び込んでしまった。  自分で面白いと思えないものを書き続けるのが、これほど精神的に辛いものだとは思わなかった。明日になったらいきなりアイデアが降って湧いてくるとも思えないが、もう脳みそが限界だ。  どうして、こんなことをしなければならないのか。はっきり言って、俺はこんなものは書きたくない。読者の操り人形としての作家人生などごめんだ。  俺はゆっくりと夢の世界に沈んでいった。ところが、おぞましい獣の雄叫びで、俺は一瞬で覚醒した。  俺は書斎を飛び出すと、廊下の奥にある扉を三回ノックした。 「おい、秀一!なにやってるんだ?」 しばらく間をおいて、息子が扉の隙間から顔を覗かせた。 「ごめんごめん、なんにもないから早く出てって」 秀一は悪びれもせずに平然と言う。 「なんにもないってことないだろう?何をしたんだ」 俺は半ば無理矢理扉を開けた。秀一が何か言いかけたが、それより前に俺は絶叫していた。  ベッドの上に居たのは、部屋のスペースの半分を占めるほど巨大な化け物だった。 「なんなんだよ、いきなり大声上げて」 「なんなんだよ、じゃねえだろ。どういうことだこれ!」 「メラゾーマドラゴン…って言っても分かんないでしょ。間違えて読書念術使っちゃったの!」  そういう秀一の手には、何やら鮮やかなデザインが施された本があった。よく見ると、『転生したらドラゴンの王国の勇者だった件』と書いてある。なんだかよく分からないが、その話になんちゃらドラゴンが出て来たのだろうか。 「使っちゃったって…。それにこれ実体じゃないか!早く消せ!」  俺は声を震わせながら言った。ドラゴンのぎらぎらとした目がじっとこちらを見つめている。
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