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マスクの男は手錠で繋がれた女の側に腰をかがめ女の黒髪を掴むとグッと持ち上げ顔を露わにした。そしてどこか聞き覚えのある声でこう話し出した。
「新宿北署のみなさん、ご存知ですよね。神童彩芽32歳、新宿北署勤務の警部補」
ーーこの声…
ーーまさか…
「おっちゃんじゃん!」
「ああ…この声と話し方は弥永主任」
「なんで!なんでよ!?」
「なんでおっちゃんが?」
ーーもしかして…おっちゃんって元ゼロのメンバー?
「わたしはソ・イングク。聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょうけど」
ーーソ・イングク?
ーーまさか…『砂漠の月』
「『砂漠の月』って何すか、吉さん」
ネットで検索する風香。
「あった。これ…」
ーー砂漠の月
1970年代〜1980年代後半にかけて暗躍した国際テロ集団。砂漠の月はアルファ・グレド(アメリカ人)を中心とした数十人の多国籍のメンバーによって構成。1971年のタイ航空爆破事件を皮切りに十数回のテロ事件を起こした。
「なんで弥永のおっちゃんが…テロ集団?」
「昔聞いたことがあるよ。ソ・イングクは韓国2世で『砂漠の月』の東アジアグループのリーダーだったらしい」
顔を持ち上げられた彩芽はいつもの黒のスーツは破られ顔や腕、全身に血の跡が見えた。気を失っているのか無反応だった。
「分かったかな」
マスクの男は彩芽の髪の毛を放すと近くの椅子に腰掛けおもむろにタバコを取り出すと弥永も使っていたものと同じライターで火を点けた。
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