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シーン49
ーー犬鳴村
狭いこの日本の何処かに時間の感覚を失くした村があった。現在ではあらゆる日本地図から抹消されている。故に日本国憲法も通用しない悪魔の村。
やや厚手の黒いマントに身を包んだ一人の若い女らしき影が夕闇迫るダムの塀を越えて跳んだかと思うとゆっくりと浮遊するようにダム湖の湖面に降りそのまま消えた。
その村は全ての外界の光を遮断したような空間。その中にあって、ゴツゴツした古びたコンクリートの天井から水滴が滴り落ちるその脇に置かれた、何人もの命を吸い取った血で染まった処刑台の椅子がある。
その側に置かれた円形のテーブルで話す二つの声。一人は黒フードのリーダーの男。もう一人は「村長」と呼ばれるダムの湖面に消えていった黒マントの女。
ーー例の政治家たちの方はどう?進んでる?
ーー拉致は一週間後の法案採決の前日の夜です。
ーー月島の時のようなヘマはしないで。ロクなら大丈夫だとは思うけど。
ーーお任せ下さい。今度は俺が直接行きますから。
ーーやっぱり江崎と松本じゃ…あの二人は昔から変に人情に厚いとこあるから。
ーークソ政治家なんかが国の将来語って、やってることはヤクザ以下。
ーーサツも政治家も官僚も…ヤクザ以下。力のない下々の人間のことなんか考えちゃいない。選挙の時だけペコペコしやがってさ…
ーー官僚もただ勉強が出来たってだけで、国民には理解できないような複雑な法律やら制度作って、国民からは搾り取るだけ搾りとっておいて、自分達だけが甘い汁を吸う…
ーー最低な人種。
富士の樹海の中を呆然と彷徨い歩く中年の男とまだ若い男の前に現れた透けたような姿の幼い女の子が突然、何処からか姿を現した。
(おじちゃんとお兄ちゃん…涙が赤いよ…血の色してる。アタシと一緒…)
(復讐したい奴いるんだよね。だったらアタシと組まない?)
(誰にも分からない秘密の場所があるから。人を傷つけて悪いことしてぬくぬく生きてる奴らに罰を与えるの…)
ーーあの日…お前に会ってなければ…俺も総長も死んでた…
ーーアタシだって同じ。希望も…祈りさえなくして、父ちゃんと母ちゃん殺したアイツらにいつかきっと復讐するって思ってても…
ーー子供のアタシにはどうしていいか分からなかった。
ーー恨みだけが生きていく為の酸素だった。
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