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シーン53
あの日から俺の、家族の人生は180度変わった。この事件がきっかけで妻と娘が家を出て、その一ヶ月後には娘が部屋で自殺した。
そして娘の葬儀が済み、気付くとこの樹海の入り口の近くにあった切株に腰掛けていた。
何を考えるわけでもなくただ座っていると、樹々の隙間から漏れる光の向こうから歩いてくる少女が俺の前に現れた。
彼女はまだ中学生位の年齢。しかしその割には何処か冷めた目と大人びた容姿をしていた。
「おじちゃん、涙が赤いよ」
俺の目をじっと見つめてそう言ったかと思うと手をとり樹海の奥へと歩き出した。歩きながら「誰かに復讐したいんでしょ?」と見上げた目は優しさをたたえていた。
ーーどうしてこの子にはそんなことが分かるのだろう?
そんなことを考えていると「不思議?」とまた俺の心を見透かす様なことを言った。
それからすぐくるっと身体ごとこちらを向き「わたしの涙も赤いからさあ…分かるの。おじちゃんの気持ち」そう俺の両手を彼女の白い両手が包み込んだ瞬間、白い霧に包まれた。
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