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其処此処に何十人もの老婆や年老いた男性が農作業をしていた。
「あれ、この村の人」
と指差す彼女。そして彼らに対して
「こんにちは…」
俺が言いかけると少女は「あいつら話せないから話しかけても無駄」としゃがみこんだ。
俺は理解できない顔で少女を見た。
「言葉を奪ってるから」
そう言って俺を見上げ微笑む意味が理解できず出た言葉は「奪った?」だけだった。
「そう。あいつらみんな外の世界で罪を犯したくせに反省もしない奴らだから、この村に連れてきて死ぬまで働かせてるの」
俺は何がどうなっているのか、現実味が一つも感じられない彼女の言葉を頭の中で何度も繰り返した。
それでも俺が生きる場所はここ以外にない気がしていた。
「人を殺した奴らは皆、死刑。それ以外の奴は死ぬまでこの村からは出れない。ここはそんな村」
「そしてそれがこの村の掟」
ーー掟…
「この村は富士の樹海にあるの?」
「ううん、福岡の犬鳴のダムの底」
「ダムの底?福岡の?」
「そんな不思議そうに真面目な顔せんで。笑っちゃうから。でも…」
「仕方ないよね。誰でも最初はそうだから。でもそのうち理解できるようになるよ」
そう言った少女の目からは紅く染まった涙が溢れ、少女もその村もまた真っ白な光に包まれ消えた。気付くと俺は樹海の切株の側で倒れていた。
そしてこの日からーーー
この村で復讐の為だけに生きると決めた。
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