第ニ章 片意地張ってるお姫様

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第ニ章 片意地張ってるお姫様

女の友情なんて有り得ない。羨望、敬愛、嫉妬・・・心は変わってゆく。 だから期待はしない。そう決めていた、けれど・・・今度のは期待してもいいのかもしれない。 事の起こりを思い返してみれば、それはあの初夏の出来事だ。 私は仕事が午後からだというので、午前中に外出させて貰う事にした。 『叔父がギックリ腰で寝込んでる』そんなメールを、叔母から受け取っていたからだった。 大学に入って東京に出てからは、叔父・叔母を訪ねる機会も減っていたし、こんな時くらいは顔を出すべきだと思った。 電車で1時間、山間の小さな町。懐かしい風景は、都会の疲れを癒してくれるようだ。「来て良かった」と思ったのはこの時までだ。 登り坂の上の叔父の家は、古めかしくて大きい。ガラガラッて扉を開けた私は、手にしたお見舞いのフルーツを落としそうになった。 「なんで!?元気じゃない!」 叔父が玄関先で笑ってる。叔母は照れ笑いを浮かべている。 「ギックリ腰は本当なのよ。でもすぐ治ってねぇ」 「治ったなら、治ったって連絡もしてよね」 「まぁいいじゃない。真白の好きな辛子漬けがあるわよ」 そう言われては、あがって食べていかない訳にはいかない。食い意地が張った私の、自業自得とも言えるか。 茶の間に座って待っていると、小さな男の子が更に小さい子供を抱き、ハイハイした子供を連れて入ってきた。 私は驚いて叔父に尋ねた。 「えっまた子供引き取ったの?」 「あぁでかい家を遊ばせておくのは、勿体なかろうと思ってな」 「だって、一雄や次郎だっているでしょ?」 そこでタイミングよく、小学生の男の子二人が茶の間に走りこんできた。一人ずつ赤ん坊を抱いて・・・ 「ええっ!全部で7人じゃない!?」 「まぁな、身寄りの無い子ってのは、結構たくさんいるもんだな」 「呆れた・・・」 叔母がお味噌汁とご飯を盆に乗せてくると、楽し気に笑う。 「賑やかでいいもんよ。私らも老けてられないってね」 「そうそう、だから俺のギックリ腰もすぐ治ったんだ」 ・・・まぁいつまでも元気でいてくれるのはいい事だ。それに、原因は私にあるんだ。 子供の出来なかったこの夫婦に、子供を持つ喜びを私が教えてしまったんだ。赤ん坊の頃から、私を引き取ってくれて・・・ 叔父さんにとっての『妹』、早くにこの家を飛び出し、突然赤ん坊を連れて来て「引き取ってくれ」と頼んだという人。 つまり、私の『母親』・・・知らなければ、知らないで良かったのかもしれない。 でも、私は知りたがってしまった。そして、東京へ出る決意をしてしまったんだ。 暫し黙り込んだ私に、叔母はなにか言葉をかけようとしてくれている様だ。それに気付いた私は、はぐらかしたかった。 「一雄、次郎、偉いね。小遣いあげるわよ!」 「やったー!」「ちょっと!喜ぶのはいいけど、赤ちゃん落とさないでよ!!」 だが、この小遣いがまずかった。 帰りの電車のチケットは買ってあるし、現金が無くても大丈夫だって思ったのに。まさか帰りの電車が遅れて、タクシーに乗ることになるなんて・・・カードが使えないなんて・・・ 私としたことが、まさか見ず知らずの女性にお金を借りる羽目になるなんて! しかも、しかもだ。こうまでして戻って来たというのに、社長の都合で仕事がキャンセルになった。 今日の午後出張から帰るから、出迎えて今後の予定を話し合うはずだっだのに。 「向こうでの会議は終わってるでしょ?なんでもう一泊する必要があるのよ」 「若社長、遊び人だからねぇ。木揺さんも苦労が絶えないわね」 同僚に愚痴をこぼしていたら、かつての上司の営業部長に呼ばれた。 どうやらトラブルらしい。私の担当していたクライアントが、クレームをつけてきたという。 「わかりました。幸い明日も午前中空きましたので、朝一で説明に行ってきます」 「済まんな、部署が変わったというのに」「いえ」 部長に頭を下げられ、そして引き継いだ担当の女性社員からも、申し訳なさげな表情を浮かべられた。 「済みません、木揺先輩」 「いいのよ。大丈夫大丈夫」 ・・・私としては、気を遣って笑顔を見せたつもりだったんだけどね。 午前中の仕事は難なく片付いた。 「新任の女性が理解していないようで」向こうの部長さんの意見が正しいね。 とりあえず、会社に報告をしておいた。ついでにもう一軒挨拶に行っておこう。私が手掛けた大手化粧品メーカー・・・こっちの担当はうまくやっているかしら? スマホが鳴った。会社のではなく、プライベートの方だ。番号だけしか表示されていない。誰だろう? 「シンデラ・・・ごめんなさい、どなたでしたっけ?」 だが話を聞いてすぐに分かった。良かった!連絡くれて、もう気になって仕方なかったのよ。 明るい色のロングヘアー、ほっそりとして化粧っ気のない顔が頭に浮かんだ。 『プリンチペッサ』がいいでしょ。職場の人間は来ないし、女子が喜ぶ店よね。 ショートメールを送信してから、もう一仕事に歩き出す・・・しかし、はたと気付いた。 ただお金渡すだけじゃ、借りを返した事にはならないわよね。よし、こういう事は先にことわりを入れておこう。 『おごるからね!』もう一度ショートメール送信。これで良し。 『プリンチペッサ』での初めての女子会。自己紹介は済んで、次は仕事の話になった。 「広告代理店よ。そんなに大きくはないけどね」 「そうなんだ。どんな仕事してるの?」 羽入はまぁ穏やかな感じだよね。実際こういう子だから、甘えてお金借りちゃったんだしね。 ・・・さっきの言い方、ちょっときつかったかな?思わず言ってしまった。気を付けないと。 「秘書よ。この春から移動になってね」 「すげぇ!カッコいい!」 なにが?青海は無邪気で明るい。憎めないタイプだね。 「ぜんぜん!まるで雑用係よ、若社長のお守りね」 「えっ社長の秘書なの!?ホントに凄いね」羽入が驚いた。 おっとぉ口が滑った。余計な情報与えちゃったな。 「真白キレイだもんね。社長秘書ってすごくお似合い」 彼女の屈託ない笑顔からして、含みの無い発言だろう。 ・・・・・・まぁいいわ。多分、羽入とはこれっきり。もう会わないんだろうしね。ここで空気悪くする必要ないわね。 私はおそらく一瞬、羽入を睨んでしまったと思う。だから悟られない為に、青海に話を振った。 「青海は何してんの?」 「わたし?フリーターだよ。ティッシュ配りとかしてる・・・でも」 言いかけて、青海は口籠った。それから変に笑って、「羽入はっ?」と。 「専業主婦とか?」 これも別に何の含みもない。最初に会った時から抱いていたイメージを言ってみただけ。 私と同い年くらいに見えるし、28だったら結婚してる方が多いんじゃないかな?一般的にはだけど。 「えーっやだ、独身よ・・・えっと家事手伝いって事になるのかな?」 「あぁごめん・・・」ここで余計な事言うのはNGよね。 「じゃあやっぱり、花嫁修業中じゃない?」青海の言い方には見習うべきものがある。考え過ぎないのがいいのかも。 「その予定もさっぱりで・・・」 赤くなる羽入を見て、自然に笑えた・・・悪くない女子会だったかもね。 会社に戻って、始めに営業部へ向かった。担当の女性社員に直接報告しようと思ったからだ。 廊下の途中に給湯室がある。女子社員が良く休憩してる場所だ。 通りかかると、話し声が聞こえてきた。聞き覚えのある営業の女性社員の声。 「部長に怒られたわよ。私が悪いんだって。木揺さん何て言ったわけ」 「結局あの人が行ったら、即解決なんでしょ?おかしくない?」 「余裕の笑み浮かべてんのよ。腹立つ!」 「向こうの部長もスケベなのよ。美人が行けばデレデレなんだから」 「美人だからって、いい気になってるわよね。私の担当のとこまで顔出したらしいのよ。問題ないってのに」 「秘書室でも、いきなり若社長の担当だって。桜木さんが文句言ってたわ」 ・・・桜木は昨日愚痴ってた同僚だ。そうか不満だったか・・・ 営業部へ行くのはやめにした。その代わり、企画部へ向かう。 企画部の人間に用があるわけでは無かった。用があるのは、企画部前に貼ってあるポスターだ。 午前中に訪れた大手化粧品メーカーのポスターが、でかでかと幅をきかせている。 私が取ってきた仕事、そしてポスターの内容にまで口を出した。企画部にも嫌われてるわね。 『女性はいつまでも美しい』30代、40代・・・そして50代。そのモデルとして、私が強く推したのが、 女優 『沖咲 麗華』 彼女が余裕で微笑む巨大なポスターを前にして、私は呟く。 「美魔女。いつまで美しいんだか」 企画部の人間が、私の姿に気付いたらしい。何かボソボソ言ってる。 どうせ、自分の仕事に酔ってる。とか、自身の功績をアピールしたいんだ。とか言ってるんでしょ。 ここも居づらい。ロビーで社長を待つ事にしよう。 エレベーターで1Fへ降りる。ロビーに行く前に化粧室へ入った。 大きな鏡の前で、自分の顔を確認する。大丈夫、化粧は崩れていない。 (そう、こんな事で崩れてなるものか) 頭の中で、様々な声が行き交う。男の声も女の声もある。 「美人は得だよね〜」「いいわね、美人は」「良かったね〜美人で」 すぅーと瞳を閉じる。そして見開いて、自分の顔をもう一度・・・口元に笑みが見えた。 「こんな雑音どうって事ないわ。私は『美人』それは『当然』の事だわ」 ・・・ふと、『真白キレイだもんね』羽入の声が聞こえた。なんでだろう?ひどく気にしている自分がいる。 ロビーで若社長を待つ・・・しかし一向に現れない。どうゆうことよ、もう〜! 総務部長や、他の幹部からも問い合わせが殺到する。携帯を鳴らせど、全く出ようとしない・・・ やむ無く探しに行くことにした。会社近くまでは戻ってきていると連絡があった。となれば、居場所の検討はつく。 会社のビルを出て、巨大なビルが立ち並ぶエリアから、大きな川に架かる橋を渡る。都会の喧騒の中、川と河川敷の公園だけは安らぎを与えてくれる。 橋の向こう側は商業施設がひしめくエリアだ。ファッションビルやレストランが目につく。 歩行者用の煉瓦の道を駆け抜け、古風なホテルの角を右に曲がる。その先のビルが目的地だ。 巨大な看板が、この施設の存在感を強烈に顕している。1F〜5Fまでもが、ある一つの店舗だ。 自動ドアが開くのももどかしく、ビルの中へ飛び込む。受付の人達とはもう顔見知りだ。 彼らは一様に爽やかで「5Fのプールですよ〜」と教えてくれた。 「ありがとう!!」私もつられて元気よく答えてしまう。そんな雰囲気に満ちた施設『フィットネスクラブ』・・・若社長はここの超常連だ。 エスカレーターで5Fへ上がると、消毒液の匂いが漂う。こんな平日の午後、入り浸る人もいないもんだ。 だが、あの人はいた。広いプールで、悠々とバタフライで泳いでいる。 私はプールのゴール地点で待ち伏せる事にした。降り注ぐ水飛沫が、頭を冷やすのに丁度いいわ。 ゴールした若社長は、水中メガネを外して一編顔を水に浸けてから、ようやく私に気付いた。 「プールサイドでその恰好はないな。TPOをわきまえたまえ」 「言いたい事はそれだけですか?私には幾らでもありますよ」 「では向こう側で待っていたまえ。向こうで話を聞こう」 「いいい〜え、あがって頂きます。向こうへ行ったら、二度と口ききませんよ」 「・・・では、仕方ないな」 プールからあがった、身長185センチに無駄に筋肉をつけまくった若社長は、悠長に歩み寄る。 そりゃ最初はドキッとしたもんだけど、すっかり見慣れたわね。そしてそうなると、もっと他にやるべき事があるんじゃないの?って苛立ちが逆に沸き立つだけ。 「ではお話を聞こうか?秘書くん」 「まだです。あがるってのはプールから出るだけじゃなくて、このクラブから出る事ですよ」 「時間なら余裕じゃないか。パーティは16:00からだろう?」 「その前に、今後の予定を話すって言いましたよね?他の幹部の方も困ってますよ」 「経理や運営の話だろう?そんなのは彼らが専門なんだから、任せているよ」 この呑気さに腹が立つ。社長としての責任から逃れようとしてるだけじゃない! 「任せるってそういうのじゃないでしょう?丸投げしてるだけ・・・」 私の発言はかなり失礼にあたる。でも若社長は、角張った顎の口元に笑みを浮かべる。 「さて、パーティに行こうか。僕の仕事はパーティで愛想を売る事さ」 スタスタと歩き出す若社長の後に、無言で付き従った。 パーティ会場は、とある商業ビルの2F。フロア全体が、一つの会場という広さを有している。 会場内には、華やかなドレス姿の女性達が多い。若社長も黒いタキシード調のスーツを着こなす。付き人の私は、いつもの濃紺のスーツ姿で、係員感丸出しだ。 「別に私は必要ないのでは?」 「いやいや、色々とフォローを頼むよ。その為の優秀な秘書だ」 「優秀?」思わず口から出た疑問だった。 「そうさ、親父が社長を引き継ぐ時、『営業でバリバリやっていた女性をつけておいたぞ』って言ってた」 ・・・へぇ顔で選ばれたんじゃなかったんだ?そうか。 なんか少し嬉しい。まともに話した事はないけど、今は隠居した前社長に感謝したい思いだ。 「さて、他に挨拶すべき人物はいるかな?」 「そうですね」会場を見回した私は、はっと息を飲んだ。 会場の人波の中、一際異彩を放つ一群があった。男性も女性も、誰もがその中心の人物に目を取られ、お喋りも飲食も止めてしまう。 圧倒的な存在感を示す人物・・・女優『沖咲 麗華』がそこにいた。 出席者に名前は連ねていた。来る事は承知の上だった。でもやっぱり、私も時を止められた。 「やぁこれは挨拶しない訳にはいかないな」 若社長は何の気なく近づいて行く。私も、他に手立ても無く付き従う・・・ 彼女がふっとこちらに目をやった。ポスター通りの笑顔を浮かべ、人波をスッと除けさせる。 「こんばんは」顔は若社長に向いているが、瞳は私を見ている・・・と思う、私は顔を上げられない。 「初めまして、(株)S,Wの茨城 将人です」 「お世話になっています。お綺麗な方をお連れですのね」 「いやぁただの秘書ですよ。沖咲さんの前では霞んでしまいますなぁ」 「まぁ若いお嬢さんに失礼ですよ」 不興を買ったかと思い、若社長はちょっとテンパッたようだ。 「いや・・・そうですね。ははっまあ美人ですかね。もし沖咲さんに娘がいたなら、こんな感じかもしれませんね」 私は、私の話がこれ以上続くのには堪えられないと思い、席を外した。 会場の外壁に沿ってぶらぶらして、窓から外を見ていた。すると見知った後姿が、小走りでビルから出て行くのを目にした。 「羽入?」 この会場にはいくつか、出窓の様に設えたベランダがある。大体2〜3人位のスペースで、今は誰も出ていない。 ガラス戸を開けて、外の風に触れる。羽入は駅へ真っ直ぐに進んでいく。ぶつかりそうになった人に誤りながら・・・ その逃げるような仕草が少し気になったけど、ここから大声を出す訳にもいかない。 「なにをしてるのかしら?」独り言だ。 「なにをしてるのかしら?」別の声が聞こえた。 ・・・隣にいきなり立たれたら、驚いて落っこちそうになるじゃない!! 沖咲 麗華が誰も従えず、ただ一人でベランダに出てきていた。私と同じ欄干に手をかけて微笑む。 ガラス戸で閉じられた空間は、この会場の喧騒の中において、2人きりの別世界を作りだす。 「いえ、別に・・・外にちょっと知り合いを見かけたもので」 「あらそう、どこ?私と違って目がいいのね」 彼女は微笑みを絶やさない。私は上ずる声を抑えるのに必死だ。 「うちの社長がなにか失礼な事を仕出かしましたか?」 「失礼っていうかねぇ・・・あなた、彼になにか余計なこと言った?」 「いえ、特に何も言ってません」 「そう、じゃあさっきのは、唯の意味のない軽口な訳ね。ああびっくりした」 彼女は少女のようにケラケラ笑ったと思ったら、キッと厳しい瞳を向けた。 「だったら注意してあげることね。あんまりヘラヘラくだらない事言ってると、世間からバカだと思われるわよ」 彼女はベランダに入ってきたのと同じように、気まぐれに会場へ戻って行った。 私は欄干にぎゅっと掴まって、崩れ落ちそうになる身体を必死で支えた。 夜、自宅マンションに戻ってベットに横たわる。 今日一日を振り返ってみるに、色々な事が有り過ぎて・・・疲れて即寝でもいい位のはずなんだけど。 目を閉じると、昔の事が思い出されるばかりで眠れない。 高校生になった時分から「あの女優に似てる」なんて事を言われるようになった。その人の事をよく知らなくて、先生に聞いてみたら「俺もファンだ〜」なんて言ってた。 悪い気はしなかった。中学の頃でも、肌がキレイとか、スタイルがいいとか言われてたけど、はっきりと『美人』だってお墨付きを頂いたようなものだから。 でもある日あの大きな家の前で、いきなり写真を撮られた。 びっくりして立ち尽くすと、カメラを手にした男がニヤニヤしながら近づいできた。当然知らない男、いかにも軽薄そうで信用ならない感じしかしない。 「あんた、木揺さんとこの娘だろ?」 「はい、そうですけど」 「なるほど、こりゃ美人だ。間違いないかな・・・あんたのお母さんの話だが」 「母は家にいると思いますけど」 私は目の前の家を指差した。 「そうじゃなくてさぁ」男がヘラヘラ笑う。私は気分が悪くなってきた。 「なにをしてるの!?」 家から母が飛んできて、私の手を取って家に引き込んでくれた。父が外に出て、あの男を追い払いに行った。聞こえてくるのは、軽薄な口ぶりの声。 「あんたの妹だろ?」「相手が誰か教えてくれよ」「本当の母親が・・・」 ・・・なに?本当の母親って?? それから数日間、学校を休んで家に閉じこもっていた。その間、TVではあるニュースが取りだたされていた。 『女優の隠し子疑惑』だった・・・似てると言われた、あの女優。 ネットの番組で、あの時の写真が出た。顔にモザイクがかかっていたけれど。 「なるほど、面影がありますね」「血は争えませんよね」これも軽薄なコメントだ。 押し黙る、母と父・・・それまで本当の両親だと信じて疑わなかった2人を、私は問い詰めた。 叔父は言ってくれた「お前は俺の娘だ。血だって繋がっている。妹の娘は、俺の娘も同じだ」 叔母は泣いていた「自分には子供が出来なかった」 私も泣いた。泣きながら「自分の両親は他にいない!」と言った。 ・・・でも心の内の思いを打ち消せなかった。 内緒で『あの女優』に手紙を書いた。写真を同封したりもした。 ・・・『逢いたい』って書いてみた。 でも全部スルー。一切返答はない・・・次第に腹が立ってきた。 (だったら東京に行ってやる!周りをうろうろして困らせてやる!!) 闇雲に勉強して、東京の大学に入って、就職も東京でした。 私は厳しい顔付きをすることが多くなった。だから『微笑みの大女優 沖咲 麗華』に似ているとは言われなくなった。
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