第七章 魔女の刃

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第七章 魔女の刃

お昼の商店街を、私は買い物袋を提げてパタパタ歩いていた。 メモを見直して、買い物忘れがないことを確認する主婦モードの私は、よもや男性に声を掛けられるなんて、夢にも思っていない。 「こんにちは、羽入さん」 皇紀さんは相変わらず爽やかだ。私は・・・心の準備が〜 「こ、こんにちは・・・先日はすみません」 とにかく前回邪魔してしまった事を、お詫びしておこうと思った。 「いえいえ、これからもお気軽に遊びに来て下さい」 ・・・そんなこと言われると、またほわっとした気分になっちゃうなぁ・・・そう言えば、気になってたんだけど。 「あの・・・」「はい」 ああ喋り出してしまった手前、お話しないわけにはいかない・・・思い切って聞いてしまおう。 「あの・・・私の名前って、どうして」 「はい、受取のサイン頂きましたから。この字で『ハイリ』って読むんだねぇって、小林君と話してて」 「ああ、あははは・・・そうでしたか」 さすが客商売だ。私は何度も会ってる店員さんが、小林君って名前ってことさえ知らなかった・・・とか自分をごまかす。(現実はそんなもんか・・・)ちょっとしゅんとする。 そんな一瞬の表情を、皇紀さんの優し気な瞳は見逃さない。 「どうかしました?」と聞かれ、沈んだ理由を説明せねばならなくなった。最近の出来事と言えば・・・ 「ちょっと友達とケンカしたのを思い出しちゃって・・・もう仲直りしたんですけど」 「そうでしたか。仲がいいからケンカするんですね」 「どうですかね・・・でも、すごく分かり合えた気がします」 私が笑うと、皇紀さんも嬉しそうにした「いい友達がいて羨ましいです」と。 「前に一度、皇紀さんともお会いしてます。取り置きでバックを買った女性です」 「ああ、あの方・・・」皇紀さんが思い出すような仕草をした。 ・・・多分『キレイな人でしたね』とか言うんだろうなぁ。 「すごく頑張ってる女性ですよね」 意外な発言に、私は首を傾げた。皇紀さんは続けて説明してくれた。 「見た所まだ新しい靴なのに、底が随分と擦り減ってました。きっと頑張って、地面を強く踏みしめていらっしゃるんでしょう」 私は心の中で拍手した。 「すごい!たった一目会っただけで、真白のことが分かるなんて・・・」 その時、商店街の仕掛け時計が動き出した。その能天気な音楽とおもちゃの兵隊は、ある決まった時刻を告げるもの。 「いけない!もう12時、家に帰らなきゃ!」 思わず叫んだ。皇紀さんはそれを聞いて、一瞬きょとんとしたみたいだった。 「あっ帰ってお昼ごはんにしないと。今日は義母も家にいるしで」 買い物袋を示して説明したんだけど、皇紀さんは何故か笑い出した。 「ああ、笑って済みません。いや、今のフレーズ何かを思い出しませんでしたか?」 私はよく分からずに、首を傾げていた。皇紀さんは未だ楽しそうにしてる。 「そう言えば、名前も似てる・・・面白いな。いや、失礼でしたね」 皇紀さんは、改めて笑顔を私に向けた。 「羽入さんはお昼は忙しいんですね。では夜はいかがですか?宜しければ、夕食をご一緒しませんか?」 「・・・はい、よろこんで」これは口が勝手に答えた言葉だ。私の脳は、皇紀さんの言葉を聞いた時点で停止している。 「良かった。これから僕は用があって本店に行くんです。終わったら連絡しますので」 「・・・はい、私も用があって銀座の方へ行きますので」私の口は勝手に嘘もつけるのだった。 嬉しいニュースが届いた。羽入と真白が仲直りしたって。 前回の仕切り直しは『宅飲み』を提案してきた。わたしのアパートは狭くて無理だなぁ。 遂にレコーディングの日を迎えた。練習を何度かして、そろそろ本番・・・なんだけどな。 控え室に籠っていると、土屋さんが訪れた。いつもの冷静な土屋 憂衣さんだ。 「大丈夫?不安なんだって?遊佐が来れなくて困ったものよね」 「それは大丈夫。遊佐さんと何度か電話で話して、詞の意味とか気持ちとか相談してきたから」 「そう、じゃあ何が不安なの?」 「えっとなんて言ったらいいか・・・もし延期とか出来るなら・・・」 「ダメよ」即答だった。 「もうプロジェクトは動き出してる。あなた一人の都合で覆す訳にはいかないのよ」 「プロジェクトって?」初耳だ。遊佐さんからも何も聞いてない・・・ 「あなたを売り出し為のものよ。これを提案して、事務所の社長からOKを貰ったのよ。でなければ、あなたのデビューは叶わなかったと言わざるを得ないわね。ちなみに遊佐は知らないわ」 (そっか、そうなんだ・・・でも、それならそれで) 「わたしは歌うことしか出来ないから、それは任せます。でもやっぱり、どうゆうプロジェクトか知っておきたいよ」 「いいけど、余計不安になりはしないかしら?多分、分かんないけど」 「聞いたら、ちゃんと歌うから」 「じゃあ約束ね・・・雑誌に写真が載るのよ。あなたと遊佐のね。それで話題を作って、遊佐の知名度を復活させた上で、あなたをデビューさせる。遊佐の楽曲で、あなたは遊佐の歌姫(ディーパ)としてね」 「・・・なに?写真って?」 「ライブハウスのよ。キスされそうになったでしょ?偶然撮ってたモグリのカメラマンがいたのよ」 ・・・あの時の?嘘!わたしは真っ赤になった。 「あと、遊佐の部屋を訪れた時のもね。あれは私が撮らせたんだけど」 「そんなの、そんなの!でっちあげだよ!全部嘘じゃん!!」 「・・・そうよ。何もかもが嘘、だから安心しなさい。頃合いを見て否定するわ・・・雑誌社を訴えてね。 あなたは黙っていればいい。歌が広まれば、くだらないゴシップなんて消えて無くなるわ」 「遊佐さんは?そんな写真が出て、遊佐さんはどうなるの?」 するとまた、土屋さんの顔が歪んだ。ふふふふって笑い声・・・ 「遊佐?遊佐は終わりよ。今の時代、不倫はめちゃくちゃ叩かれるって知ってるでしょ?しかも自分の娘と同じ年くらいの子が相手となれば、尚更ね」 「えっ?だって写真の子は、中学生くらいだったよ」 「あんなの10年も前の写真よ。その間、家族とは離れ離れなの・・・子供達は成人して、父親を認めていない。それが証拠に、2人とも音楽の道には進んでいないわ」 「遊佐さん可哀想だよ!」 「娘くらいの子に同情されるまで堕ちたわね・・・それでいいわ。もう誰も遊佐を尊敬しない。僅かに残ったファンからも愛想を尽かされるがいいわ・・・家族を音楽を奪われ、絶望の底で這いつくばるといいのだわ」 「なんで?分かんないよ!なんで土屋さんは、遊佐さんを貶めようとしているの!?」 「聞きたい?」 「聞きたい!」 「聞いたら歌うのね?」 黙って頷いた・・・そして、打ち明け話を聞いた。ようやく、この人の本心を知った。 コンコンとドアをノックする音。スタッフの人達は、私の為にすっかり準備をしてくれている。 みんなに迷惑をかけちゃいけない・・・私は歌わなければならないんだ。 分かってる。分かってるのに・・・控え室の鏡に映るわたしは、真っ青な顔で立ち尽くしていた。 土屋さんは、同じ鏡で乱れた髪を直し、鏡越しにわたしに命じた。 「約束よ。行きなさい」 それでも動けないでいると、凄まじい怒鳴り声が響いた。 「歌えっ!!!」 こんな幸運に恵まれて・・・きっと真白と仲直りしたのが良かったんだ。 そう考えると青海のおかげでもあるよね。今度会ったら2人にお礼しなきゃ。 待ち合わせ場所に皇紀さんが来るまで、私はショーウィンドウで自分の格好を映して見ていた。 (靴とバックが決まっているのに、どの服がいいのか分からない!) 思い悩んだ挙句、姉に相談した。姉はいかにも適当に「これとこれ」と答えた。 さらに「なに?デートでもすんの?」と聞いてきた。 私はパタパタ手を横に振って否定したけど、多分ばれてるよね・・・まさか相手が皇紀さんだとは思わないだろうけど。 (おかしく無いかなぁ。お姉ちゃんは服飾関係だから、大丈夫だとは思う) 姉のセンスに間違いがないなら、結局は着てる人の問題だよね。相変わらず自信が持てないな・・・ 「お待たせしました」 現れた皇紀さんは、麻のジャケットにスラックス・・・ラフな服装でも格好いいな。隣にいて大丈夫かな? 「夕食には早いですね。少し歩きましょうか?」 「あっはい!」皇紀さんに見惚れてたせいで、返事が遅れた。慌てて大きな声出しちゃって、少し恥ずかしい・・・ にこやかにエスコートしてくれる皇紀さんについて歩き出す。 「この辺は良くいらっしゃるんですか?」 「いえ、全然・・・」言いかけて、昼間の嘘との整合性に欠けると瞬時に思った。 「最近は!あんまり・・・前は良く父と出かけました」 「お父さんですか?確か亡くなってらっしゃるんでしたね」 「はい、ですから小学生の頃ですね」 うまく話がすり替わってホッとするのと同時に、当時の事が思い出された。 「父が社交ダンスを習っていて、私も覗きに行って・・・あっちょうどこの辺りです!」 私は軽くテンションが上がって、少し先の曲がり角を指差した。 「『社交ダンス』ですか?あったかな」 「はい!そこ曲がると直ぐに」考えてる素振りの皇紀さんに、私は得意気に言った。そして曲がり角に着いた瞬間、 「・・・あれ?」私は固まった。皇紀さんの気を遣った言葉が耳に優しい。 「2〜3年前に出来たんですよね。この『水族館』・・・」 「そう・・・なんですね」赤面するのと同時に軽く凹んだ・・・想い出の場所だったのに。 そんな私に皇紀さんはやっぱり優しい。 「デートスポットとして人気なんですよ。入りましょう」 パッと私の手を取った。この時点で、私の脳はまた停止した。 なんだか気分が軽い。誰かに悩みを打ち明ける事が、こんなにいいものだったとは驚きだ。 自分だけいい気分なのは申し訳ないな。青海と羽入に悩みがあるなら、今度は私が聞いてあげよう。 「随分と機嫌がいいじゃないか?」 「ええ。こないだ友達と病院帰りにラーメン食べに行って、いろいろ話して、スッキリしたって言うか」 「それはこの間、ケンカしたって言ってた相手かい?」 「そうなのそうなの。あれが良かったのね・・・雨降って地固まるってやつ」 ここまで話して、私は若社長と外出していた事を思い出した。 「・・・です。はい、すみません。またため口きいてしまって」 「いや、いいさいいさ。それより気付いているかね?真白君」 「なにをですか?」 「先日は『知り合い』と言ってた相手を『友達』と呼んでいるぞ」 「・・・そうでした?」改めて言われると『友達』って言葉は、何だか気恥ずかしい。 「そうさ。さあ到着したぞ」 どうやらここが目的地。場所も聞かずについて来たけど、仕事じゃ無かったの? 「何で『水族館』に来たんですか?」 「君が言ったことだ」・・・また、意味不明な返答を・・・ 「『社長の仕事を考えろ』と言ったろ?だから親父に聞いてみたんだ。そしたら、『大きな営業でも取ってくれば、社員の見る目も変わるだろう』とね」 「それで、どうして私を連れて来たんですか?」 「営業の人間を伴って行こうと思ったんだが、あいにく営業は皆出払っていてね」 「なるほど・・・(まあいいか、折角やる気になったんだし手伝ってやるか)アポは取ったんですね?」 「ああ、ここの支配人とパーティで親しくなってね」 これは大きな進歩だ。率直に感心した。 「パーティでの人脈を仕事に活かすなんて、『社長の仕事』っぽいですね」 「そうだろう?」悦に至る若社長に、しかしちょっと皮肉も交えておいた。 「どうせなら、例のフィットネスクラブの営業取ってくれば、余計に感心されたのでは?日頃の筋肉増強も無駄じゃないって、大きな顔出来ますよ」 これには少しばかり嫌な顔をされた。 それまでどこをどう歩いて来たか分からないけど、大きな水槽の前で私の脳が起動し始めた。 それは巨大な水柱となっていて、周囲を廻りながら鑑賞出来る造りになっていた。360度を囲む廊下は、緩いスロープ状になっていて、下から上に向かって歩きながら魚達の姿を追って行ける。 基本真っ暗な廊下から、ライトアップされた海の世界を眺めていると、なんだか吸い込まれそう・・・ 「すごいね・・・」皇紀さんもすっかり夢中で見入っている。 「こんな景色を見ていると、自分の悩みがちっぽけに思えてくるね」 ・・・どうしたんだろう?皇紀さん。彼の横顔を見つめて首を傾げた。 「僕の場合は、母と店のことで・・・いや、なんでもないんです」 皇紀さんは口をつぐんだ。でも、なにかあるなら言って欲しい・・・私で良かったら・・・ そう思って言葉を探した。でもそれが叶う前に、私は別のものを目にしてしまった。 巨大な水柱の中で、大きなアオウミガメが悠々と上から下へと過ぎて行った。 その姿の陰に隠れていた・・・つまり、水柱の向こう側の景色。そこに、青海が立っていた。 水の向こうだからぼんやりとしている。でも明らかに、気持ちが沈んでいると伝わってくる。水槽のガラスに手をあてながら、スロープを下って行く・・・ 「・・・青海」思わず呟いていた。皇紀さんはそれに気付いたようだ。 「友達?声を掛けなくて良かったの?」 「はい・・・でもいつもと様子が違っていて・・・」 そう、様子が違う青海に、私は声を掛けるのをためらってしまったのだった。 『社長の仕事』をしに来たはずなのに・・・この人は何をはしゃいでいるんだ。 順路を無視してあちこち歩き回る若社長に、とんと呆れ果てていた。今いるのはアマゾンゾーンらしい。 「おおピラニアだ!こっちにはピラルクがいる!でっかいぞ〜」 (いいから仕事して!)他の人の手前大きな声も出せず、こめかみを押さえ続けていた・・・そろそろ限界だ。 「おおワニだ!ワニがいるぞ!」そうとは知らぬ呑気な声に、きっと睨む。 ・・・1メートル程の水槽に、子供のワニがいた。頭を水面に浮かべ、体は沈んで水中に。ちょうどその短い尻尾で、水底に立っている様な格好で、目は虚ろ。眠っているらしい。 (か、可愛い・・・)つい水槽の前にへばりついてしまった。 (写メ!!)慌ててポケットを探る。今度は上着の外ポケットにスマホを入れていた。 「気に入ったか?よーしよーし撮ってあげよう」 「えっ?そうですか?」若社長の申し出を素直に受けて、子ワニとツーショットを撮って貰うこととなった。 慣れないピースサインで向かうスマホのカメラ・・・の先、若社長の背後、人影の中に一人ポツンとしてる青海を見た。 「青海?」思わず歩き出そうとしたが、写メが歪んだということで、若社長からリテイクの指示があった。 撮り直しの間に青海の姿は消えていた。 (・・・あんな哀しそうな顔、初めて見たな・・・) 『水族館』は癒しの場所だ。ダメージ回復を目当てに立ち寄ることにした。 耳にイヤホンを付けっ放しにしていた。わたしはわたしの歌を聴いていたんだった・・・それを止めた。 胸に込み上げてくる気持ちは抑えようがない。大好きな大きなアオウミガメを見ても。 「あれ?羽入だ」・・・一緒にいるスマートな人は皇紀さんとかゆう人かな? ひょっとしてデート?やったじゃん。 (なんにしろ邪魔しちゃ悪いよね) 上に進むとぶつかっちゃうから、下へ行こう。あんまりアマゾンゾーンは好きじゃないけど。 ・・・なんだか騒がしい人がいる。やたらに体がでっかい、と思ったらその人の連れが・・・ 「真白だ」じゃあ、あれが筋肉社長なのか・・・お仕事かな? (やっぱり邪魔しちゃ悪い・・・どうしよっかな?) 「なにが食べたいですか?」 その質問が遠くに聞こえてしまった。こんな大切なシーンなのに、気持ちがそこに無かった。 「あっはい!ごめんなさい、聞いてなくて・・・」 怒られて当然の態度だ。それなのに、皇紀さんは笑ってくれる。 そして、私の気持ちを察してくれて、こんな風に話してくれた。 「さっきのお友達。水色のパーカーに青いジーンズ・・・そして青いデッキシューズを履いていましたね。普通に考えると、ちょっとやり過ぎな一色コーデですね。でもそれをする理由は・・・」 私は皇紀さんを見つめる。爽やかな笑顔に、先程見せた曇りは見受けられなかった。 「・・・恐らくラッキーカラーでしょう。何か叶えたい願いがあるんでしょうね」 皇紀さんは自分自身にも悩みがある。それなのに、私の気持ちを分かってくれる。見ず知らずの青海の気持ちも。 「でも今、その青い靴が重い碇になって、足を引きずるようにして歩いていましたね」 こんなに優しい人がいるだろうか?こんなに優しい人が!? 皇紀さんは言ってくれている。私に青海を追えって言ってくれている!! 「ごめんなさい!」 私は駆け出した。水柱を廻って下へ。アオウミガメの後を追いかけて下へ! 「じゃあ、そろそろ支配人に会いに行くか」 若社長の言葉は確かに聞こえていた。私には仕事を果たす義務がある。 ・・・そう、分かってはいるんだけど。 「すみません!やっぱりこれは秘書の仕事じゃないんで!」 私は走り出した。呼び止める声に、 「頑張って下さい!!」と返して! (青海の向かった先は出口だ!外に出てどこに向かう??羽入が言ってた・・・青海と橋の展望エリアで話したって。青海は水の流れを見たがったって!) 会社からここに来るまでにも橋を渡った。いつも社長を探して渡る橋だ。途中に展望エリアが・・・ある!! (子ワニが立ってる)・・・そう思って前を通り過ぎた。 気が付くともう出口だった。真っ暗な夜の街・・・遥かに望む視線の先に橋が見えた。 (あそこだ!)自分の直感なんて当たったことも無いくせに、何故か闇雲に自信が持てた。 いつもの調子で橋を渡る・・・しまった!展望エリアは反対側だった! 実はこれが木揺 真白だ。慌てたり感情的になったりすると失敗ばかりする。 ・・・自分のことは分かってるつもりだったのに!! 橋を通る車は案外多い。慌てて横切ろうとしたら間違いなく轢かれる・・・橋を渡り切って、向こうの交差点まで行って戻るしかない!! 水族館を出てから行く宛も無くて、でも橋を見つけたからブラブラ歩いてきた。 わたしはやっぱり夜景の街並みを眺めるよりも、水の流れを見る方が好きだ。 欄干に掴まって真っ黒い水面を眺める。夜は光の反射が、水の流れを見せてくれる。 そんな風に、真っ暗な闇の上を光が走ってくる。そんな出来事が実際に・・・あることがあるんだと知った。 「青海!!」 ぜーぜー息を切らして、真白が来てくれた。 「真白、お仕事は?」 「あれは社長の仕事よっ」 「青海!!」 反対側から、今度は羽入が走ってきてくれた。 「羽入、デートは?」 「えっ?違うよ違うよ!そんなんじゃないよ!!」 真っ赤になって・・・ほんと分かりやすい。反対側の真白も呆れてる。 (そうかぁわたしの事心配して来てくれたんだね・・・ダメだよね。心配させちゃあ) 「あのね、わたしレコーディングしてきて・・・」笑顔で話そうとした。 「いい!私達の前で、無理に笑おうとしなくていいの!!」 いきなり羽入に怒られた。 (そんなこと言われたら・・・わたしどうしていいのか・・・)口をつぐんで俯くことしか出来なかった。 僅かな沈黙・・・それを破ったのは、真白の突然の告白だった。 「私、私、沖咲 麗華の娘!」 「・・・そうなの?」沖咲って女優の?正直驚いた。 「そう、そうなの本当なの」 「えっ羽入は知ってたの?」 「うん、このあいだ聞いた」 「・・・そうなんだぁ」・・・それで『親』が『親』かぁと思っていたら、真白がとてもらしくない事を言い出した。 「じゃあ次は羽入!なんか暴露して」 「えっえっ?」明らかに羽入は困惑している。 「なんでもいいから!あるでしょ?秘密・・・」 真白が追い立てると、羽入は意を決したという顔をして、割と大声で叫んだ。 「私、私・・・皇紀さんが好き!」 それから恥ずかしそうに「・・・好きになっちゃった」ともじもじする。 わたしは『うんうん』と頷く。真白は「いや、それ別に秘密になってないから・・・」と。 羽入は最高潮に真っ赤っ赤だ。 「え〜すっごく恥ずかしかったのにぃ〜」 その内にみんなで笑った。笑顔を作る必要なんてなくなった。 この暴露大会の締めくくりはわたし。次はわたしの番だ・・・ 「あのね・・・」
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