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雛鳥の羽
「やっと寝付いてくれたよ」
ファビオはチョコレートじみた褐色の顔に穏やかな微笑を浮かべると、真新しいブナ造りの小さなベッドに赤ん坊を寝かせた。
「ありがとう」
私は自分のベッドから赤ちゃんを見やる。
薄褐色の肌をしたレナータはファビオ譲りの長い睫毛の目蓋を閉じて眠っていた。
寝息を立てるたびに小さな肩が上下して背中のフワフワした灰色の小さな翼が微かに揺れる。
眺めていると、布団に入れた干し草の香りに混ざってほんのり乳臭い匂いがこちらにまで漂ってくる。
「ちゃんと羽のある子が生まれてきてくれて良かった」
心の中で呟いたつもりが声になって出た。先程までレナータに含ませていた左の乳首がうっすら痛む。
「どんな子だって可愛いさ」
ベビーベッドを覗くファビオの中高な横顔が答えた。
揺るぎない声だ。
背中で閉じた大きな黒い翼が灯火に照らし出されて幽かに虹色に反射した。
「あなたと同じ黒い翼になるのかな」
この世界では人は翼を持って生まれてくるのが「普通」で、私のような翼がなく手足でしか移動できない人間は「羽なし」と呼ばれる障害者の括りだ。
「多分ね」
ファビオの横顔が頷いた。
「僕も小さい頃はこうだったし」
振り向いた顔に浮かぶ笑いは哀しい。
「最初は皆、灰色の羽で生まれてくるんだ」
ファビオの太く長い頸に掛けたペンダントの、小さな卵じみたオパールが虹色に煌めいた。
「赤ちゃんの内は誰も飛べないしね」
こちらを見詰める榛色の瞳に潤んだ光が点る。
私が元いた世界の基準に照らし合わせれば、ファビオは恐らく黒人と白人のダブルに該当する風貌だ。
翼も閉じている時は完全に漆黒だが、開くと先の方の羽は純白だ。
しかし、元いた世界でそうした鳥が完全に白い「白鳥」に対して「黒鳥」と名付けられたように、ファビオもこの世界では完全に白い翼を持つ「白羽」の人間と区別して「黒羽」と呼ばれる。
「それなのに、大人になると、やれ『羽なしは呪い』だの『黒羽は悪魔』だの勝手に決めつけて皆、石を投げ付けるんだ」
ドン! ドン!
突然、家の扉を叩くというより殴る音が響いてきた。
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