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残り2週間と差し迫った俺の体は、11歳にして凄く締まった身体つきになっていた。
太腿も筋肉質で、これは…凄いと思った。
もう、筋肉痛で苦しんで寝るとはおさらばとこの時までは、思っていたんだ。
けど、ギウサ師匠は、今回、凄い事を考える師匠なんだと教えられた。
3週間目の早朝。
オームさんと特訓している広場に、俺とギウサ師匠が向かい合わせで立っている。
俺は槍を構え、ギウサ師匠は、持っているカギをウォーハンマーの形に変えて構えていた。
ガイさんは、本日、観客に回っている。
「ジン、見るからに強くなってるサ…だいぶ、しごかれたみたいサ。」
「そりゃぁ、遠慮せずに鍛えてもらいましたからね。もう、魔物でも、なんでも、どんとこいだ。」
「ふふ、じゃぁ、一先ず、君の成長見せて貰うサ。」
師匠の台詞に俺は、ニヒルな笑みの1つを浮かばせて頷くと、自分の足を'下半身強化'させ、師匠に迫った。
その状態で、次に腕に'速度上昇'、'物理攻撃上昇'を施し、師匠のカギ目掛けて、何度も鋭い打ち込みを繰り返した。
ガキンッ!ガキンッ!と、大人顔負けの音が響く。
師匠は、ウォーハンマーで上手く避け続け、1度大きく後ろに後退した。
「上手く、スキルを使いこなし始めたサ。良い傾向サ。」
「へへ、これも、オームさんやガイさんのアドバイスのお陰ですよ。」
そう師匠は、褒めてくれたんだが。
少し、空気が変わったんだ。
俺が、その異変に気付き、師匠の顔を見ると口元が笑っていなかったんだ。
「し、師匠?」
「……だが、君は、まだ、知らない戦い方がある。それを今から、教えるサ。が、これは、少々、人目に晒したくないのサ。」
そう言うと、ウォーハンマーをその場に叩き着けたんだ。
途端に、ウォーハンマーから、青白い光が地面と空に無数に飛び出してあっという間に、師匠と俺と包み込んだんだ。
どうやら、周りの風景が一変し、紫色の空間が広がり、地面だけは、元の広場のと変わらなかった。
そして、目の前には、師匠じゃなくて…師匠じゃない、黒の犯人みたいな格好をした奴が、ウォーハンマーをもって、構えている。
その殺気が、凄い。
いつも優しい師匠ではない、何かがそこに立っていたんだ。
そいつからなのか、俺の頭の中で声が響いてきた。
『武器を…構えろ…小僧。』
この声は…ギルマン!?
よくよく、見ると黒いそれは、ギルマンと同じ格好で、俺はぎょっとするも、目付きを鋭く細ませ、槍を構える。
じりっ、じりっと、距離を構え、雰囲気に飲まれるなと自分に何度も言い聞かせて、先程と同じ様にスキルを使って、走り、そいつに鋭い一撃を加える。
ガキィイイインッッッ!!
凄い音がなるも、その一撃は、簡単にいなされ。
ギルマンの黒い影は、口元と思われるそこが、ぐぱっと開き、笑っていやがる。
『遅いなぁ、小僧。』
言うやいなや、今度はギルマンからウォーハンマーで攻撃を返してくる。
極力、相手の攻撃を受けないように避けていたが、動きが先程と違って、どうしても、どうしてもだ。
槍で受けるしかない。
'防御力上昇'で負担をなるべく減らし、受ける。
よし、耐えられる。
俺と影のギルマンとの激しい攻防戦は繰り広げられた。
だいぶ、時間が掛かってしまった。
俺も、ギルマンの影も息がだいぶ乱れて、次で決めると俺が槍を持ち直そうと力を込めた。
…のだが、次の瞬間、俺の視界が、ぐらっと揺れる。
足に踏ん張りを入れるも、それが本当に力を入っているのかが分からない。
何かが、何かが俺の中で、起きてる!?
俺のこめかみから、冷や汗が垂れた。
そんな俺の状態を、待ってましたと言わんばかりに、ギルマンの影が動き。
俺が『しまった!』と思った次の瞬間。
ウォーハンマーが俺の横っ腹に思いっきり入って吹っ飛ばされる。
俺は、槍も落としてしまって、地面に叩きつけられた。
「がっはっ!?」
げほっ、ごほっ、とむせ込む。
何が起きたと考えるも、身体が思うように動かない。
動かない…何でだ!?
俺は思考を必死に、フル回転させる。
その間にも、ギルマンの影が、のっし、のっし、と俺に近付き…そして、言った。
『俺が、本当に、正々堂々、戦うと思ったのか?ガキ相手によ。』
そこで、フル回転させていたある1つの考えが浮かぶ。
この野郎は、武器に何かしらの状態異常をさせる効果をつけていやがった。
血の気が引くって、こーゆう事だろう。
そうだ…。
馬鹿正直、正統法で、相手も戦ってくれる可能性は…実は低かったんだ。
この一撃が、俺の中で勝敗を分ける結果ともなった。
そんな時に俺が取る行動は…。
再び、ギルマンの影が、ウォーハンマーを俺に向かって振り落とされる。
が、寸前で止まる。
ギルマンの影がサーーッと消えて、変わりに師匠の姿がそこにあった。
その細い瞳からは、めっちゃ、大粒の涙を流し、けど、じっと、俺を眺めて。
「…これが、まだ、君の知らない戦い方サ。彼のハンマー攻撃を受けて、時間が立つだけでも危険なのサ。言葉の説明よりも…これが、確実に伝わるサ。…伝わった…伝わる…けども……やっぱ、君に辛い目に…あわせるのは……なんで、こうも……」
「…し…しょ…ぅ…。」
師匠は、ウォーハンマーを落とし、それ以上何も言わず、倒れた俺に近付いて、優しく抱き上げる。
ぎゅっと俺を抱き続けて、俺に顔を隠して、こうも泣いてくれる師匠。
俺は…。
「…師匠の…気持ち…俺…ちゃんと…わか、って、ますから…最高の…師匠…です…。」
優しい俺の師匠。
俺は、この大切な実践を脳裏に、しっかりと焼き付かせ、ろくすっぽ動けなくなった身体を、師匠に寄り添う形で休める事になった。
次は…次は、同じ手は食わないと…心に決めて。
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