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ギウサが、今度は俺の方を振り返り。
もう片方の手も掴み、後ろ向きで器用に歩いて、ギリギリの端で止まった。
俺の顔はどんな顔になっているか…視線が1度、ギウサの顔から後ろに向けられる。
そんな俺を、ギウサは、笑って。
「大丈夫サ、ジン。この泉は、君を強くする。泉だけじゃないサ、この世界は、君に触れる全てを、強くするーー」
そう言い切る途中で、ギウサが、俺を捕まえていた両手を離し、そのまんま後ろに倒れるんだ。
ぎょっとした俺は、両手を前に突き出して、ギウサを追っかける。
「ちょっ!ギウサ!!」
もう、無我夢中だった。
後一歩、の所で、俺も、湖に前のめりで、ギウサと共に、湖の中へ飛び込んだ。
2つ上がる水しぶき、俺は咄嗟に目を瞑り沈んでいく。
『 ーーンーー』
誰かが呼びかける。誰だろう…。
『 ーージンーー』
聞こえてきた…聞こえてきた?
『 ーー目をーー目をーー』
『 開けるんだサ!』
しっかりと聞こえたあの独特の語尾に、俺は、はっとして瞑っていた目を開ける。そこには。
湖のそこに至る所で、剥き出しの色つき鉱石が光り続けている。
それ以外に、小さな光りが悠然と鉱石の間や湖の中をゆらゆらと動いて、か細い線を時折残していた。
その線は数秒の後に消えてしまって…少し、もの悲しさを感じる。こんな湖の中、俺は知らなかった。
息は…なんだろう、出来ている。
口は開く事が出来ない。
そんな俺は泉の中心で止まって浮いている。
背後に……大きくて優しい光りを、感じた。
『 ジンーー』
あぁ、これは、ギウサだ。
『 この泉の唯一の生き物、ルッチョラフィッシュ。その生き物が近付いてきたら、身体を揺らめかして避けて欲しいサ。』
この光りを避ける。
背後から、小さな光りが、俺に向かって来るのが分かると、俺は、ゆらっと1つ動作をして避けてみた。
……光の線が、俺から離れていく。
また、俺に近付く、小さな光り。
俺は今度は、少し身体をくの字にして、ゆらっと動いた。
それを避けると何だが、身体の感覚が徐々に鋭さを増し、優しく避ける事が出来る。
『 そう、優しく動きを合わせて…』
頭の中で、優しい声が響く。
湖の中なのに、怖さが感じない。肌に感じる温い温水プールの感覚に似ていた。
けれど、何かの感覚も、身体の感覚も、このルッチョラフィッシュを避ける度にレベルが穏やかに上がるのを感じていたんだ。
このまんま、湖の中に居たくなる不思議な感覚と共に…。
不意に、俺の腹の辺りを何かの両腕が抱える感触と共に、全身が上に引っ張られるのを感じた。
その時、初めて、こぽっと口が開いたと思ったら、俺の身体は凄い勢いで上に上がり、ざぼーーーんっ!水しぶきと共に、湖の中から引き上げられた。
そして、がはっと外の新鮮な空気を吸い込んでしまって、げほげほとむせ込む。
気付けば、俺はギウサにお姫様抱っこされていて…物凄く、身体が疲れていた。
「ジン、本日はここまでサ。君は、飲み込みが早い…素敵な子になるサ。」
「……ギウサ……すげー……眠い。」
「ふふ、眠っていいサ。お疲れ様、ジン。」
そう言うと、ウトウトしているびしょ濡れの俺を、何かの魔法を掛けて乾かしたと思っていたら、俺は寝てしまった。
その日は、心地よい疲れと気持ちよさが入り混じった気持ちで寝る。
俺の2日目が終わった。
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