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生活開始
授けを受けて、先ず、今一番、確信したかったのが、自分の容姿を見たかった。だって、本当に夢の様な異世界での転生。
その上、女だった俺が、願い通りの見た目になっているか、うずうずした気持ちが抑えきれずに走り出して海に近付く。
ざぶんと優しい波打ちが繰り返す綺麗な海。海自体も小さい頃行ったきりで、それも好奇心が刺激された。
ばしゃん、ばしゃんと足が波に足に触れた瞬間、自分の身体が優しい緑と青の光に包まれるのが感じた。
「えっ!?」
驚いたのもつかの間、大量の海の情報が私の中で満たされていくのが分かる。溢れ零れそうな程に目を細めてその時間が、とても愛おしくなっていく。
その時間が不意に終わると私は再び砂浜に立っていた。
広がる海を見つめておもむろに片手を伸ばす。
そして、掌を広げると…頭の中で浮かんだ言葉を口にする。
「 魔力操作 」
すると、海の水が20cm程のボールの形になって、自分の方に近付いてくる。
そして、自分よりやや目線が下になる位置まで近付くと、自分が思い描いていた鏡用な形になり、覗き込むとほんとに自分の顔が映っていた。
10歳の幼い顔立ちで、髪も短く何とも…かっこいいと言われる部類に入るんだろう。思わず、両手で自分の頬を押したり揉んだりして感触を確かめる。
「あぁ…本当だ。男になってる。」
自分の表情が、ニヤニヤとしてしまう。
声も自分の好みの声で、正直、大好きだと叫びたい。が、流石にそれは、恥ずかしいのでやらない。
これで、自分の姿も確認出来て、尚且つ、水の魔法が自分で習得した自覚もある。何とも不思議だなぁと思いながらも、指を鳴らし海の水はそのまんま、勢いよく海に戻る。
もし、自分の考えている事がそうならと今度は、浜辺から森の方へ近付く。
綺麗な砂浜から、土と草、そして白の木…が生えて自分の見た事のない植物が鬱蒼と茂っているのだが、一人分の小さな道?がそこから、続いているのが分かる。
「草も…ちゃんと刈り取られて…るか?もしかして」
『 誰か居るのかもしれない。』と言う結論に至った。あぁ、初めて、この世界の住人に会えるかもしれないと思うと、矢張り好奇心が湧いてきて、早く進もうと思ったのだが、ふと、本が無い。
あれ?落としたか?と思ってその本を思い浮かばせると目の前に現れた。
思わず、がっしりと掴み、汚れてないか?濡れてないかを確認して…何もない事にほっと一安心すると、それを持ってその道を歩き始めた。
歩き始めると、見たことの無い植物に、虫、それに綺麗な鳥の姿も見えたり、歩く植物園だ。
それに、空気が澄んでいて心地が良く、足の重さは、まだ、感じなかった。
暫く歩いていると、道が開け幻想的な湖が広く、大きな葉っぱや花が浮かび、なんだろうか。
真ん中にまん丸の土地が見えて、そこに行き来する…白い橋の様な物がある。
しかも、真ん中には…茸の家がある。窓っぽい形、それに扉…確実に家だ。
俺は、少し不安になって、持っている本を開いてみるとこの世界では、どうやら様々な植物を使って住まいを建てる風習があるのだと。
大抵は、妖精やドワーフにゴブリンが穴や木、葉っぱを用いて使うらしい。家を作る住人は、ほぼ友好的とも書かれていたので、建築やらなにやらが、覚束無い今の自分には、絶好のチャンスだと思った。
本を閉じて、白い橋を渡り、茸の家の真ん前まできた。近づいてみると、やけに大きい事が分かる。
大きく深呼吸をしてから、コンコンと扉をノックし。
「ご、ごごご、ごめんください。だ、だれか居りますか?」
深呼吸をした筈なのに、吃りが酷く、誰が聞いても緊張しているのが分かってしまう。
あぁ、この言葉は通じるだろうかと思っていると、中から。
「あいあい、その声はドワーフさんサ?ちょいとお待ちなされサ。」
可愛い声が返ってきて、足音が聞こえる。俺は何となく1歩下がり、扉が内側に開かれ、その住人が顔を出した。
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