プロローグ

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プロローグ

冷たい雨が強弱をつけてアスフアルトを殴り付ける。 雨は弾け散って、車のドアや窓に跳ね上がる。 久しぶりの大雨に木々は喜び、草や花は背筋を伸ばす。 花壇の花を見詰めて彩花は傘を握る。 春に咲く赤い花は何も言わずに咲き乱れる。 彩花はチューリップが好きだ。雨に濡れているチューリップには楽しい思い出が詰まっている。彩花が十歳の頃に飼っていた犬がよく花壇の周りを駆けていた。雨の日も構わずにじゃれつく犬のミオと彩花も一緒に遊んだのだ。ミオは彩花が中学生のときに老衰いで死んでしまった。それからは動物を飼うことはなかったが高校になってもミオのことを忘れることはなかった。 雨が強くなる。明日も高校があるのだから早く帰らねばと歩き始める。チューリップが咲き乱れる道を数分歩けば彩花が住んでいるアパートは近い。 彩花は四階建てのアパートに母親と暮らしている。父親は行方不明だ。ひとりでクルーズ旅行に出掛けて帰ってこなかった。既に死亡届けは出している。丁度ミオが死んでしまった頃と被るのでその頃彩花は落ち込んだ。 今でこそ、普通の暮らしができるようになったのは進学した高校のおかげだった。高校は普通科だった。部活は空手部に属している。都大会では指四本に入る実力だ。部活の先輩に直主将と言われている。彩花は部活にのめり込むことで本来の明るさを取り戻していった。 雨足が強くなる。今日は一日土砂降り警報が出ていた。 彩花が着ている制服も持っている鞄も雨の滴で濡れていた
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