3章 昔話

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「西の魔女(アイリス)の目的はサルト王子との結婚ですよね? セピア姫が縁談を断ればサルト王子が戦争を仕掛けてくる。これはいったいどういう流れですか。俺には話が見てきません」 「西の魔女(アイリス)は悪くはないのです。サルト王子がすべて企んだことなのです」 「西の魔女(アイリス)はサルト王子への気持ちを利用されただけなのですね?」 「そうです。でももう、呪いを架けられた以上はどうすることもできません」 哀しげにセピアは瞼を伏せた。 「セピア姫、そんな表情をしないでください」 ハルバートは慌てる。 「大丈夫です。私は呪いが解ける日を待つだけです。魔女も魔術師も永遠という時間はないのですから」 「しかし、姫の身体もただではすまないでしょう。いくら時間が止まっているとはいえ結界がほどけてしまえば負担が掛かってしまう。一気に時間が動き出してそのまま朽ち果ててしまう可能性だってある」 ハルバートは可能性を口にして、恐怖を煽っただけだと後悔した。 「呪いや魔術のことはさっぱりわかりません。ハル。どうして西の魔女(アイリス)は貴方にこの場所のことを教えたのでしょうか?」 「それは俺と彼女が幼馴染みだったからだと思います。ですからセピア姫の話を信じることができるのかもしれません」 「仲が宜しかったのですか?」 「ええ、昔から。だから解るんです。もしかしたら俺に助けを求めて来たんじゃないかっと」 「では、貴方はもう気がついているのですね? 私の呪いを解く方法を」 ハルバートは唇を結んだ。セピアは結界に押し付けていた掌を思い出したように退けた。 「許されないこととは思います。でも俺にはアイリスを殺すなどできない」 ハルバートの掠れた声にセピアが結界の中で顔を曇らせた。 「そうですね、私だって親友を幼馴染みを殺せと言われたら迷います。困ります。どうしようもない背徳に悩みます」 「ごめん、セピア」 「良いんです。それしか方法がないといわれれば、貴方に頼るのはおかとちがいです。私のことは気にせずにお戻りください。父母に告げれば他に頼むことでしょう。ここへ来てくれてありがとう。そうして──二度と来ないで」 セピアの表情は泣きそうだった。 ハルバートは見ない振りをして時計塔を飛び出す。
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