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「ここかい。ここは魔法の国という国だ。首都から南に約十キロ離れたイシス帝国のハルビノという村だよ。そうか、彩花は異世界から俺たちの騒動に巻き込まれてやって来たのか」
ハルはぶつぶつとぼやいた。
「あの、話がよくわからないんですけれど。ここは日本でもなく地球でもないんですね?」
彩花は確認するように尋ねた。
「地球と呼んでいるよ。ニホンという場所は知らないな。たぶん魔法の国から逃げ出した幻獣が辿り着く場所なんだろう。それでそこの人間を喰らう。俺たちの役割は幻獣を捕らえて売ることなんだ。彩花はその騒動に巻き込まれてしまったんだよ」
ハルがひとりで納得したように頷いた。
「そんな、じゃあ、私は日本に、地球に帰れないってこと?」
「あ、いや、前例はある。帰れるよ」
ハルが手を振った。
彩花はハルの言葉に安堵した。正直、帰れないという不安に襲われていた。
「良かった」
彩花は呟いた。事実は小説よりも奇なり。というがこの事だと思った。
開いた扉から帽子の似合う蒼い瞳の少年と、背丈が低いフードを被った少女が顔を覗かせていた。
そんな二人と目があって、彩花ははっとする。
「あなたたち──なんなの」
咄嗟に彩花は聞いていた。
「オレはスカイ。こっちはミオ。魔法使いだ」
スカイが真っ先に部屋に踏み込んだ。寝るときも帽子を被っているようだ。青い布で作られた三角の帽子の天辺でぼんぼりが揺れる。
「スカイ。ミオ。起きてたのか」
「ハルがお姉さんにちょっかい出さないように見張ってただけだい。お姉さん、ハルに気を付けた方がいいよ?」
スカイが忠告めいたことを彩花に告げた。
だが彩花は少女の方を気にしていた。
「なんだよ。無視かよ」
スカイのぼやきを聞き流し、彩花はミオに駆け寄った。
「本当にミオって言うの?」
「はあ?」
ミオは返事に困ったように茶色い眼を動かしてハルに助けを求めた。
「彩花、ミオが困っている」
「ああ、ごめんなさいっ、あの、失礼な話──昔飼っていた犬と同じ名前だったものでつい」
彩花は慌ててミオから離れた。ミオが着ているパーカーと半ズボンの後ろに犬の耳と尻尾が見えたのだ。彩花は自分の目を疑った。ミオよりも困惑した彩花に噛み付くような鋭い視線を見せてミオは不機嫌に言った。
「初対面で犬扱いしないでよね。失礼じゃない!」
「ごめんなさいっ」
「知らない。こんなやつさっさと帰しちゃってよ!」
ミオが強気で発言するなり、部屋を飛び出した。
あとを追いかけようとした彩花をスカイが止めた。
腕を掴まれた彩花は咄嗟に振り払おうとして動きを止める。
見返してくる蒼い眼差しが真剣に詰めよって来る感覚に恐怖を感じたのだ。
「もう、夜遅いからさ。外に行くのは止めとけよ。もしどうしても行くならオレかハルを連れて行け」
「──危険なの?」
彩花はミオを気にした。自分の行いに胸が締め付けられている。言い様のない罪悪感だった。
「人間を好物としている幻獣がたくさんいる」
「でも、謝らなきゃ」
「死にたいならいいけど」
スカイがすっと離れると黙っていたハルが言った。
「ミオは確かに犬だけど、心は人間だよ。それにしても彩花がミオのご主人様だったとはね、運命とは恐ろしいものだ」
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