人狼ゲーム 3日目

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人狼ゲーム 3日目

 スピーカーから昨日と同じ無機質な女性のアナウンスが聞こえた。 「それでは三日目の追放会議を開始してください」 「亜美……亜美は!?」  昨日まで隣にいたはずの亜美が、教室のどこにもいないことに気付き、京子が動揺を見せた。 「お前、命拾いしたな」  哲夫はいつものように隼人をからかって楽しんでいた。 「それにしても昨日の小野殿の最後のあの発言はちょっと印象最悪でござったな」 「あの一言がなければおそらく処刑されていたのは阿部くんだったはずだよ。児嶋さんと川村さんが投票先を阿部くんから小野くんに変えたのもあれが原因だったんでしょ?」  公一のふたりへの問いにうなずいたのは、当然京子のみであった。 「ねえみんな、ちょっと聞いて!」  由香里の声に一同が彼女のほうを見やる。 「私ね、昨日阿部くんが結構疑われてたから、阿部くんを占ってみたの。そしたら……」  先を言いよどむ由香里を、一同は固唾を呑んで見守った。由香里は意を決して言葉を続けた。 「人狼だった」  教室中に衝撃が走った。一同の驚きの視線がゆっくりと哲夫へ向けられていく。 「はあ、何言ってんだよてめえ!」  哲夫が憤慨して席を立つ。 「なるほどな、てめえが人狼だったってわけか、泉。おいみんな、これで今日の処刑は決定したな」  哲夫の言葉に誰も反応を示さなかった。それどころか、なおも疑惑の目を彼に向け続けている。 「なんだよてめえら。まさかこの女の言うことを信じてるんじゃねえだろうな!?」  威圧的な態度で周囲を威嚇する哲夫。 「占い師に黒判定を出された人がいた場合、その日の処刑はその人というのがセオリーでござる」 「黙れキモブタ!」  力也の意見を哲夫は一蹴した。 「でもそれは霊能者がCOしてるときなんだよね。霊能者がいないと次の日本当に阿部くんが人狼だったか判断できないから……」  公一の言葉を聞いて、哲夫はわずかに笑みを見せた。 「そうだろ、だったら俺を処刑したって意味がない。この偽占い師を処刑したほうが今後のためになるだろ」 「由香里が偽者の占い師って決まったわけじゃないでしょ」  哲夫の意見に麻衣が反論する。 「じゃあどうするんだよ」  隼人の発言をきっかけに、教室に沈黙がおとずれた。 「ねえ、ちょっといい?」  静寂を破ったのは意外な人物だった。川村京子である。 「今まで黙っていてごめんなさい……」  謎の懺悔から始まった彼女の言葉に、一同は耳をすませた。 「私が霊能者なの」  再び教室に衝撃が走った。 「どうして今まで隠してたんだ?」  誠が叱責しないような口調を配慮しつつ尋ねる。 「……怖かったから。だってCOしたら、それだけ人狼に狙われやすくなるってことでしょ? 黙ってればうまく助かるかも知れないって……」  一同は京子の更なる言葉を待った。 「でも亜美が死んじゃって……なんかもう、どうでもよくなっちゃって」  京子は目に涙を浮かべながら、投げやりな笑顔を浮かべた。『やけくそ』という言葉が、彼らの頭の中に浮かんだ。 「対抗COはいるかな?」  公一の問いに、反応を示すものはいなかった。 「じゃあ川村さんが霊能者で確定だね。さっそくだけど井上くんと小野くんの霊能結果を教えてもらってもいいかな?」 「……ふたりとも村人だった」  教室に落胆のムードが漂う。 「しかしこれで本日の処刑は決定でござるな」  力也の発言を、哲夫はただ額に血管を浮き立たせ、奥歯をかみ締めながら聞いていた。 「なあ、本当にコイツをやるのか」  隼人がぼそっと言った。その発言の意図を汲み取った一同はただ黙ったままだった。隼人もその意味を理解し、それ以上口を開くことはなかった。 「もし次の日の霊能判定で阿部くんに白が出た場合、そのときは泉さんが偽の占い師であることが確定するからね」  公一が申し訳なさそうに言った。 「ところで隆俊くんの占い結果はどうだったの?」  麻衣が思い出したように尋ねた。 「あ……いや……」  隆俊からはなんとも歯切れの悪い返事が返ってきた。 「その……川村さんを占っちゃったんだよね」 「はあ、何言ってんのあんた。川村さんはたった今霊能者だって確定したでしょ!?」  レイが叱責する。 「だって昨日の時点ではまだ分からなかっただろ。昨日小野が最後に、川村さんは一言もしゃべってないから怪しいって言ってたから、俺もそう思って調べてみたんだけど……」  隆俊の発言は尻つぼみに終了した。 「ちょっと待て、確かお前、昨日は小野に投票してなかったか?」  誠が若干の動揺を見せつつ尋ねる。 「ああ、そうだけど」 「つまりお前は小野が人狼だと思ってたんだろ? 人狼がわざわざ仲間を危険に晒すようなことを言うわけないだろ」 「人狼陣営の作戦としてそういうこともあることはあるけど、昨日の小野くんはどう考えても苦し紛れに川村さんに責任転嫁しているようにしか見えなかったよ」  誠の言葉に公一が重ねる。 「ち、違うよ。俺は別に小野が人狼だと思ってたわけじゃないんだ。ただ五十嵐が言ってたように、意見を言わないから仕方がなく投票しただけで……」  隆俊が慌ててふたりの意見を否定する。 「あんたもしかして自分が処刑されないように時間稼ぎしてるんじゃないの? 川村さんが霊能者って分かって、それに合わせて彼女に白判定を出したんでしょ。自分の占い結果は正しいって思わせるためにね!」  レイの発言に、一同はハッとして隆俊を見やった。 「ち、違うって! 本当にたまたまだったんだよ!」  隆俊は必死の弁解を試みる。 「確かにその可能性は十分考えられるね」  公一がレイの意見に同調する。 「だってさ、俺、誰が人狼かなんて分からないんだよ……」  隆俊が情けない声をあげた。 「ねえ、この無能占い師のためにアタシたちが占い先を指定してやったほうがいいんじゃない? これって別にルール違反じゃないんでしょ?」  レイが一同に提案する。 「ああ、それがいい! そうしてくれると俺も助かるからさ」  真っ先に隆俊が賛同の声をあげた。一同も本人がそう言うならと、特に反対意見が出ることもなく決定した。 「本当に手のかかる無能占い師だわ!」 「じゃあ波多野は誰を占えばいいと思ってるんだよ」 「そんなの決まってるでしょ。一条さんよ」  レイの意見に、教室には辟易ムードが漂った。 「何よこの空気。あんたたちね、こういうカマトトぶってる女が実は一番怖いんだから」 「じゃあお前みたいな女が実は清楚でおしとやかってか?」  隼人が含み笑いを浮かべながら言った。 「あ~ら、惚れた女がバカにされるのは我慢出来ないのかしら?」 「何だと!?」  一触即発の空気を誠が制した。哲夫は憔悴したまま席を動こうとはしなかった。 「川村さんはどうかな、確定村人としての意見を聞きたいな」  公一が尋ねる。 「私は……波多野さんかな」 「は、何でよ!?」 「すごく個人的な感情で一条さんを攻撃してるような気がするから。ちょっと村の和を乱してるように見える」  反論を試みようとするレイに、健太が割って入る。 「ぼくはその意見には反対だな。確かに一見そう見えるけど、ただ言葉がきついだけで間違ったことは言ってないと思うんだ。さっきの林くんに対する発言みたいに、結構鋭い指摘もしているしね」  意外な助け舟にレイは驚いた。 「それよりぼくは、もっと疑われていない人を占うべきだと思うんだ。つまり斉藤くんか増岡くんをね」 「何で?」  隆俊は率直な疑問を投げかけた。 「だって考えてもみてよ。今ぼくが挙げたふたりを疑っている人がいるかい? もしこのふたりの中に人狼がいるとしたらどうなると思う?」  村人の脳内に浮かんだのが地獄絵図であることはいうまでもなかった。 「そうなんだ。ぼくたちは船頭を人狼に任せた船に乗っているようなものなんだよ。しかももしふたりとも人狼だったとしたら……ぼくたちにはもう勝ち目はないだろ」 「確かにそのとおりだな」  賛同したのは隼人だった。 「でもふたりには特に怪しいと思う点はなかったと思うけど。言っていることも全部納得できることばかりだったし」  麻衣が意見する。 「だからこそ危険なんだよ。ふたりはこのゲームの経験者だからね。初心者のぼく達を納得させるなんて簡単なことさ。信頼している人の意見は正しいと思っちゃうだろ? ここぞというときに嘘をついても誰も疑わない。それが狙いさ」 「ぼくは別に占ってもらっても構わないよ」  公一が言った。 「拙者も構わんでござる」  力也もそれに続いた。 「ただぼくが占い先として指定したいのは佐藤くんだけどね。自分を怪しんでいる人はやっぱり気になっちゃうからね」  この公一の意見に力也も賛同した。 「で、結局俺は誰を占えばいいわけ?」 「多数決をとろう。これから名前を挙げていくから隆俊に占って欲しい人に手を上げてくれ」 「ちょっと待って。ぼくは斉藤くんに手を上げるから、ぼくの意見に納得してくれた人も斉藤くんに手を上げて欲しいんだ。ぼくが名前を挙げたふたりの中で票がバラけるといけないからね」  健太が慌てて付け加える。  多数決の結果は、以下のようになった。 公一→誠、由香里、隼人、健太、雄太郎 健太→麻衣、公一、力也、哲夫 レイ→京子 麻衣→レイ 「じゃあ俺は明日、斉藤を占えばいいってことだな」 「一日分占いが無駄になっちゃうけど、多数決で決まったのなら従うしかないね」  公一が残念そうに言った。 「由香里はどうする? みんなに占い先を指定してもらう?」  麻衣が尋ねた。 「えっと……どうしたらいいかな?」 「泉さんは必要ないんじゃない? だって少なくとも黒判定を出してるわけだし、どこかの無能占い師と違って。これからも期待してるわよ、本物の占い師さん」  隆俊に向かって、皮肉たっぷりにレイが言った。 「投票の時間となりました。お持ちのスマートフォンに表示されている投票画面から、処刑したいと思う人物を選び、決定ボタンを押して投票してください」 各々がスマホを手に取り、ボタンを操作していく。この日はあっという間に結果が出た。 「投票結果が出ました。お手元のスマートフォンをご覧ください」 一条麻衣→阿部哲夫 宇佐美誠→阿部哲夫 林隆俊→阿部哲夫 泉由香里→阿部哲夫 五十嵐隼人→泉由香里 安部哲夫→泉由香里 波多野レイ→一条麻衣 佐藤健太→阿部哲夫 斉藤公一→阿部哲夫 増岡力也→阿部哲夫 菅谷雄太郎→阿部哲夫 川村京子→阿部哲夫 「投票の結果、本日の処刑は阿部哲夫に決定いたしました」  アナウンスが終わると、哲夫は立ち上がり、教室を出て行った。徐々に遠ざかる足音を聞きながら、彼らは意識を失ってしまった。  翌朝、犠牲者は出ず、村には平和な朝が訪れました。
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