第三話【半年の猶予】

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なぜなら、非常に難しいからである。 嘘を被せたことで、うめき声がまた漏れる。 「命なんて……惜しくはない……殺るなら殺れ!」 くぐもった声。 苦痛に呻きながらも、扉の向こうで痛みに耐えながらそう答えた。 「もしかして、尋問とか耐えれる訓練されてます?」 「内偵や暗殺者なら必須科目だろ……何を今更」 通りで耐えられてしまう訳である。 センスだったなら絶対に無理だろう。 そして、余計に扉を開いてなるものかと体重をかける。 廊下の向こうから声がする。 慌てた様子でやって来たのは応援にかけつけた尋問官達だった。 「ああ、助かりました」 「容疑者確保!!」 そして、捕まったのはセンスだった。 扉の向こうを確認もせずに、センスがやったのだと決めつけてきたのだ。 「こいつをどうしてやりましょう」 その場で送り先を値踏みする尋問官。 「これだけの事をして……裏切り者がどうなるか分かってるんだろうな!」 まだ事態を飲み込めていない尋問官は、扉を開いてしまった。 扉の向うには死体とイースタンからの暗殺者が蹲っていた。 腕をようやく解放したのか、グチャグチャになった右腕が見えた。 そして、血走った瞳。 ヤバイ殺されると思った次の瞬間、体が大きくビクつく。 戦闘センスの無いセンスはどこに避けるべきかわからずに震えるしか出来なかったのである。 しかし、その震えが功を奏した。 センスが抵抗したと感じた尋問官に床へと押し付けられたのだ。 「無駄な抵抗をするな!」 切れたのは尋問官の両腕。 センスは難を逃れ、そして痛みの反動で尋問官に引っ張り上げられる。 先程まで頭の有った地面を垂直に降下するナイフが見えた。 「なんだこいつは!?」 驚きでセンスを投げ飛ばす尋問官。 センスにその意志は当然無かったが、身を挺して暗殺者を取り押さえた形となった。 「……あ、ああ……」 思考が状況に追い付いた頃には、全身から嫌な汗と震えが始まる。 奥歯をガタガタと震わせ、生唾を飲み込んだ。 片腕しかない暗殺者はセンスにかろうじて抑え込まれている。 だが、これを利用するしかない。 「この人は僕が邪魔で訪れたウェスタン上層部に雇われた暗殺者の人です!尋問官の方は急ぎ雇用主を調べるためにこの人を取り押さえてください!僕がここに捕らえられたのは陰謀が絡んでの事なのです!僕がなんとか押えている内に速く!この人を!」 口から出任せを並べ立てる。 イースタン側からの刺客だと説明すると、本当に内偵だと思われてしまうかもしれない。 なので、本当の敵は身内に居るのだと伝えた所で尋問官が暗殺者の身柄を手錠で拘束した。 「助かりました」 「それはこちらこそといった所だろう」 尋問官は暗殺者を眺め見る。 このまま暗殺者も尋問されて死ぬのだろう。 そう思った時には行動は早かった。 「この方はあくまでも人質を使われて、仕方なく僕を殺しに来た様です」 「貴様……何を」 センスが取り押さえる形故に、センスはそのまま暗殺者に顔を寄せた。 「簡単に死ねると思わないでください」 「敵に情をかけられるなんて家の恥だ!いっそひと思いに殺せ!!」 暴れられると押さえていられない。 弾かれて手が浮いたが、すかさず尋問官達が取り押さえた。 「こいつも人質を取られた被害者なのか、可哀想に」 「違う!そいつのデタラメだ!」 「うんうん、まずは落ち着こうな」 「くそ……話を……」 「さ、取り調べをしようか」 暗殺者が運ばれていく。 脱力して地面に座り込むセンス。 「先程、内偵のコーラルからの情報提供でセンスはスパイではないと連絡が来た。現状コーラルからの情報には信憑性が高いものばかりで、事実陣形や伏兵などの報告が役に立っている。それを踏まえて彼の正当性を証としてセンスを本日より再び戦場へ戻す許可が降りた。現場からも暗殺者の捕獲の協力を受けたことを上に伝えよう」 「釈放は嬉しいのですが、戦場に戻されるのは……」 「嬉しいだろう、センス100人将」 敵前逃亡は即刻死刑である。 「嬉しくて涙がちょちょ切れます〜!!」 悲しくて悲しくて震えた。
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