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プロローグ:ある日の記憶
何百という顔が、空を駆ける二人の少女に向けられていた。コートを支配する重い空気の中、誰しもが息を呑み込み、緊張と興奮の熱を感じながら試合を見守っている。
響き渡る轟音と共に美しくも色鮮やかな光弾が広場を縦横無尽に駆け巡り、その都度観客は感嘆を漏らした。
激しく鼓動する心臓を落ち着かせようと#遥__はる__#は深く息を吐く。同時に、対戦相手である#凛__りん__#も同じようにゆっくりと深呼吸をした。
――全国を賭けた中学最後の試合。
これに勝てば全国。負けてしまえば彼女の……いや、彼女達の「魔法少女」は終わる。
僅かに拳が震えた。全国を賭けた重圧に遥は押しつぶされそうになった。
「悔いのない試合にしようね」
緊張を解すかのように。そして、これからの戦いに敬意を送るように凛が呟いた。
うん、と答えながら遥は力強く凛を見据える。
試合終了時間まで残りわずか。五分とない制限時間の中、遂に二人の少女は試合に終止符を打とうと動き出した。
「これが私の全力。受け止めて、私の全力を!!」
「全国に行くのは私達! そこをどけええええ!!!!」
互いに全快の一撃。最大限の魔力を使い、全身全霊の魔法を放つ。
眩いばかりの閃光が会場を包み込み、思わず観客は瞳を閉じた。
打って変った力強くも勇ましい光弾の競り合いは、二人の少女による負けん気の具現。
勝てば次のステージ、全国へ。負ければここで終わり。
震える唇は緊張のせいだろうか。最終試合の激しい攻防戦を真面に見ていると、今にも心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
だからなのか。この時ばかりは、両チームの選手たちは目を閉じてただひたすらに勝利を祈った。
「――凛!」
やがて誰かが叫んだ。同時に会場に歓声が響き渡り、試合終了のホイッスルが甲高く鳴り響く。
勝敗が決まり、全国を賭けた試合が終了した瞬間だった。
『試合終了! 勝者、宮前中学 三年 田尻凛!』
勝者の名前が声高らかにアナウンスされ、一斉に彼女の仲間は歓喜を声にした。
魔法少女全国大会に駒を進めた宮前中学の選手が、満面の笑みで疲れ切った凛の元へと走り寄った。
「はる、お疲れ。もうちょっとだったんだけどね」
「……ごめん」
張り詰めた緊張が解ける中、地面に横たわる遥へと雪菜は手を差し伸べ、僅かに微笑む。
顔に熱を帯びながら、消えそうな程小さな声で答えると遥はその手を力なく掴んだ。
横目に勝利の余韻に浸る宮前中学の選手達を見て。敗北に涙を浮かべる仲間達を見て。
「――お前のせいだ……っ!」
共に汗と涙を流してきたパートーナーの一言で。
舞羽遥という一人の選手は。
――ああ、私達の「魔法少女」は終わったんだ。
そう実感した。
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