+1+ ゼアスが足りない!!
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+1+ ゼアスが足りない!!

 サーシャ家の一室。  珍しく机に座りガリガリとノートにペンで書き殴るのは、吸血鬼と淫魔の混血ハーフでありサーシャ家の正統な後継者であるレイチェル・サーシャ。  教育係のシャザール・クレアに言い付けられた一般教養とやらのテスト範囲を猛勉強中、の筈だった。さっきまでは。  ガリガリ、ガリガリ⋯⋯。ペンが形取る文字は最早三文字のみ。 『ゼアス、ゼアス、ゼアス、ゼアス。ゼアス。ゼアス。ゼアス。ゼアス。ゼアス、ゼアス、ゼアス、ゼアス。ゼアス。ゼ』 「ふんがあああァァ~~~~ッ!! もっ、ムリィ――――ッ!! ぜ・あ・すに会いたあ――――いッ!!」  俺は、勉強机の上のノートと教科書を放り投げ、うぎぃ――っ! と自らの蒼い頭を両手でガシガシと搔きむしり天を仰いで絶叫した。  その拍子に俺の頭の上が定位置のぎょんちゃんがビックリ仰天し、文字通り飛び上がって小さなコウモリちっくな羽をパタパタさせて目を白黒させたが構ってはいられない。  俺はそのまま床にゴロンゴロンと転がり、ジタバタと両手両足をバタつかせる。 (ゼアスに会いたいっ! 禁断症状がヤバイ。卒業するまでとか待てないっ!)  ぎょんちゃんが【ぎょーん?】と心配そうにピョコピョコと跳ねながらオレの頭の上から大きな目で覗き込む。  そんなぎょちゃんを俺は恨めしそうに見上げる。 「⋯⋯ぎょんちゃんはズルイ」 【ぎょん?】 「ぎょんちゃん、たまにゼアスに会ってるジャンか。『うっすらぎょんちゃん』になる度ゼアスに魔力供給して貰いに行ってるの俺知ってるんだから――っ! うわ――ん、ズルイズルイ俺も会いたいよおおおお!」  そうなのだ。いつだったか。いつも真っ黒なぎょんちゃんがなんだか灰色になっちゃって、まんまるなお目目も半分くらいに閉じちゃって、え? どうしたの、病気!? ってオタオタしてたらフッて消えちゃって!  あの時はほんっとーに心配して、北の魔女の所に駆け込んだんだけど、五分もしない内に元気いっぱいで帰って来たのだ。なんと、ゼアスの匂い付きで。  北の魔女の説明によると、ぎょんちゃんは結局俺じゃなくてゼアスの魔力で生まれた遣い魔だから、ご主人様の魔力供給がないと活動出来なくなるんだそうだ。  そ、そうなのね。いや、それはなんだか複雑な気持ちなんだけど。ぎょんちゃんが元気になったんならいいんだけど!  純粋に。うらやまし――――っ!!  いいな、いいな。俺もぎょんちゃんになりたい。  卒業したら迎えに来るって言った。でも一年も待てない。俺からはお城に会いに行けないのに。当然ゼアスから来てくれる筈もなく。  俺は壁に貼ってあるゼアスのポスターにスリスリと頬擦りして涙ぐむ。  昔、ラズと行った街で買った非公式な五大悪魔グッズ。おこづかいはたいて買ったそれは、シャザールに隠してたけど最近見つかった。ベッドの下に隠してたのに。勝手に掃除とかマジやめて欲しい。  もはや隠す必要もないと開き直り、今では屋敷の自分の部屋の壁にデカデカと貼っている。  シャザールはただのミーハーのひとりだと思ってるからそう思わせとこう。  でも怒られた。お屋敷の高い壺をかってに売りさばいて足りないお金を工面した昔の悪事まで芋づる式にバレ、そりゃもうこってり絞られた。  ポスターのゼアスは明らかに隠し撮り。物凄い仏頂面で遠くを見ている全身写真。風になびくマントがたまらない。  魔界には写真とかカメラとか言う概念がないから、これってかなりのハイテク魔力。そもそもゼアスに気付かれずにって盗撮だよね!? 制作者は一体何者なんだろか!? 噂によると儲けは五大悪魔の一人の研究費用の足しになってるとかなんとか⋯⋯。ま、俺はグッジョブとしか言えないけどね!  萌え補給に再びお店を訪れたらお店ごと忽然と消えていて。あーー、コレ、メッチャレアだよおおお! 「はあぁ~、すきっ」  俺はさらにいつぞやシャザールから受け取った封筒を取り出し、クンカクンカ嗅いでゼアスの残り香を探す。 『あのゼアス・サイファ様がここにおいでてたんですよ。なんと、貴方のお部屋のポスターのあの方です! 日頃の行いが悪いから会えませんでしたねぇ』  ぷーくすくす、なんて憎まれ口と共に手渡された王家の紋章入りの封筒。  俺がゼアスとアンドリューと別れて、三日三晩眠りこけて。ようやく起きてからは、色んな事を聞かされた。  なんでもゼアスが卒業したら迎えに来るのは、魔王様の使者としてらしい。どうもレオン絡みのお呼び出しらしく、俺はチョットビビっている。こんな出来損ないが魔王様に会うのってどうなんだろう。何を期待してるのかな。やめた方がいいと思うな。  でもでも、ゼアスは『卒業したら恋人にしてやる』って、『迎えに行く』って言ったもん。そこまでは言ってないかもしれないけど、可能性がありそうな事は言ってた!  ぜったいっ!  さらに、シャザールから渡された手紙はもう二通。  一つは、淫魔学校から。まさかの単位が足りませんよーなお知らせ。  ハァ? 何言ってんの? あんなにマッズイの頑張ったのにぃ!?  ノルマ五人の所、後から精密判定器でリング解析したら人間・・は四人だったって言うんだよ。いや、ちゃんと五人食べたモン。俺チャンと数えたし!  変態腐れ神父入れてちゃんと五人。  なんなの。納得いかねぇ!! 機械壊れてんじゃねぇの!? もしくは校長の嫌がらせとしか思えない。  だが校長に直談判する勇気などあろう筈もなく。  二年次にもう一度一年に混じって〝狩り〟の単位取るのが嫌ならこの休みに補習の申し込みをするようにというお知らせプリント。  え。補習ってアレじゃん。校長の個人授業レッスンってヤツじゃん!? 俺は魔獣やらスライムやらを思い出し文字通り震え上がった。そんな申し込み誰がするもんか!! 俺はその手紙をモジャってゴミ箱にポイした。  シャザールに一年次の単位が足りなかったから二年次に取るとだけ伝えると、『これでは吸血鬼学校ヴァンプスクールに編入出来ないではないですか』とガックリ肩を落としてた。  結果オーライ!!  俺は、内心ガッツポーズをしたものだ。  で、最後のお手紙は『夜会』の招待状だった。  なんか、次の真満月マックス・ムーンの夜の特別な集まりに参加しろー的な。どっかの偉い吸血鬼さんからの収集なんだって。  真満月マックス・ムーンの夜って、なんか二つの月がどっちも丸くて、しかもなんか空の上にくるターンのヤツだよな。  ラズ達が発情期に入るヤバイ日。いつだっけ? まだ先じゃね?  やだなー。めんどくさいなー。普通の夜会すら行ったことないし。  レオンが上級試験受けた時にすごくお世話になった偉い人らしくて、なんでもレオンのお父さんの親友らしい。つまり、俺のおじいちゃんの友達かあ。  でもさ、吸血鬼の集まりって絶対ヴァンキスアイツ居るじゃん。アイツらも居るだろ? 決まり。バックレよう。  俺は強く心に決めて、とりあえずシャザールにはいいお返事をした。そん時になったら言ってねー、みたいな。  絶対行かないけどね。べーっだ。  それからは、ひたすら缶詰でお勉強。  ひと月の学期休みが終わり二年次になってからは、シャザールの強行で寮を引き払われ屋敷から通う羽目に。  遠いと文句を言うとシャザールが毎日魔法で送り迎え。やたら食生活を管理され、とにかく自由がない。  で、今日は週末のお休みを活かしたお勉強タイムってヤツ。  やったら様子見に来るシャザールがウザイ。明日学校で一般教養試験って言うのがあり、シャザールはすごく力を入れているのだ。  俺のノートはもはや『ゼアス』三文字でいっぱいなのに。  抜け出したい。サボりたい。  ゼアスに会いたい。  もはや、ゼアスのちゅーの感触が思い出せない。 「ゼアスに、あーいーたーーーいっ!!」  なんとか。なんとか会えないものかな。  俺はむくりと起き上がる。 「困った時の北の魔女!!」  シャザールが勉強の進捗を確認に来るのはだいたい三時間ごと。えーい、うざいな。来すぎだってば。全く信用されてない。  まあ、さっき来たばっかりだから、抜け出すのはちょうど今がオススメ!  俺は、キラリといい笑顔でぎょんちゃんを見る。ぎょんちゃんはガッテンとばかりにキラリと丸い目を輝かし、ピョンコとオレの頭に乗っかった。 (うっしゃ! レッツラゴ――!!)