+3+ ついに見ちゃった犬猿の仲☆
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+3+ ついに見ちゃった犬猿の仲☆

 鏡がザザッと波打つなり、誰かの低い声。 『⋯⋯いい加減レオン様にベタベタ付きまとうのは止めろ』 『はぁ!? 何かと思えばそんな話!? ヤキモチですか。見苦しいなぁ。あたしとレオンさまは夫婦なの。イチャイチャして何が悪いの』 『――何が夫婦だ。認められるか! そもそもレオン様の御子を宿しているというのは誠、真実なのか!?』  ドンッ!! と壁に荒々しく拳を突き、低く唸るように告げたその声の主は、たぶん俺のよく知る人物で。  でも、喋り方もぜんっぜん違うし、雰囲気も声音も、何より表情かおが、全然違う!! 『チョット近いんですけど。ジンマシン出ちゃうじゃない。離れてくんない? アンタなんかに壁ドンされた所で全っ然ときめかないんだけど!?』  怖い顔の銀髪の長身の男を、臆することもなく勝気な紅い瞳で見上げるのは、ウエーブがかった紅い長髪の超絶スタイルのいい女。 「わあ!? マリアだ! これ絶対マリアだよねっ、えっ、俺に似てない!?」 (んん? なんか見たことあるな。会ったことあるような⋯⋯?) §⋯⋯いや、貴方の方が似てるんですからね。ちなみに、ミス・マリアは大の男嫌いで、男に触られると本当にブツブツ出ちゃうのですよ⋯⋯§ 「えええええ!? ナニソレ、そんなサキュバスいるのおおお!?」 §⋯⋯レオン様だけが唯一の『聖域』だとはしゃいでおられましたな。もおベタ惚れで。お懐かしい⋯⋯§ 『そんなの聞かなくても分かるでしょ。ここに命の気配感じるでしょうに』  マリアが得意げにまだスリムな自分のお腹を愛しげに撫でた。 『⋯⋯忌々しい。その魅力眼チャーム・アイで記憶をなくした無垢な主を誑かしたのか。許せぬ。穢らわしい。この下等な淫魔サキュバス風情が⋯⋯!!』 『⋯⋯チョット待って。あのね、イヤラシイ想像して穢らわしいのそっちだからね!? 言っときますけどあたしはレオンさまをキレイなままであの人に返すって決めてるの。その為の〝処女受胎〟なの。アンタこそ厭らしい目でレオンさまを見て穢さないで』 「ハアァ~~!? 説明! 説明ぷりーず!」  俺はハテナだらけで頭を捻る。 (しょじょじゅたいとは!? 記憶をなくしたってどゆこと!?) 『黙れ。貴様の言うことなど信用できるか』 『アンタこそ引っ込んでて。あたしがレオンさまを幸せにするんだから。せいぜいあたしが呪いを解くのを指を咥えて見てなさいよ』 『そんな話信用する出来るか。魔王ルキフェル様が帰られればお前は間違いなく消される。呪いも解いて下さるだろう』 (のろい!? のろいってなにー?) 『ハッ。他人任せの役立たずが偉そうに。残念でした。あの人が帰って来る前にあたしがレオンさまを助けて差し上げるの。言っても分かんない人は黙ってて。あたしはもうレオンさまの妻なんだからね。うらやましいでしょ、あーげないよーだ』 『⋯⋯死にたいらしいな。この猫被り。あの方の手を煩わすまでもない。今、消し炭にしてやる』  シャザールのもう片方の手がゆっくりと持ち上げられ、パリっと放電する。漲る殺気。本気の殺意。 (ひーー。こ、こんなシャザール見たことなああーーい!) 『猫被りはどっちかしら。やってみなさいよ。出来るものなら、ね』  臆することなく睨み上げ、バチバチと交わした視線で火花を散らし合う二人は、どう推察してもシャザールとマリア。  こ、これは、予想以上の〝犬猿の仲〟!! 『⋯⋯言っとくけど、あたしになんかしたらぜんぶレオンさまにバレる魔法かけてるんだから』 『――なん、だと⋯⋯!?』 『伊達に生まれた時から居候してないんだから。北の魔女の助手舐めないで』 『〝北の魔女〟だと。あの魔界一と名高い北の魔女か⋯⋯!?』  えー、北の魔女ってすごいの!? イ~ヒッヒのあの北の魔女だよね!? そしてどうやらマリアは結構出来るヤツらしい!! んんんんおっかしいな~。俺は一体誰に似たんですか~!? 『レオンさま、ガッカリしちゃうだろ~な~。まさか主人に忠実な側遣いが、主人の目を盗んでこーんな⋯⋯』 『⋯⋯貴っ様。卑怯な』 『アンタの弱点なんかお見通しなんだから。べ~だ』 『そこに誰かいるんですか?⋯⋯え。シャザール⋯⋯!? やめなさい!!』  高くはないけれど澄んだ声。  長く癖のない青い髪がサラリと揺れた。 『わーい。レオンさまだ~っ!』  紅い髪の女、いやマリアは、パッと顔を輝かせてそれはそれは嬉しそうに笑うと、ドーンとシャザールを押し退けてピョンコと跳ねるように、慌てて駆けてきた声の主に抱きついた。  さっきまでの挑戦的な表情とはうって変わって愛らしい。声のトーンも一オクターブは高い。まるで別人のような豹変ぶりに驚いてしまう。 『マリアさん、大丈夫ですか? まさか、うちのシャザールがまた何か』  心配そうに瞬く少し垂れ目の大きな瞳は、俺と同じ〝蒼〟。 (――――レオンだ) 『レオン様。こんな夜中に如何いたしましたか?』  シャザールがこれまたさっきとは別人のような穏やかに取り繕った笑顔と言葉使いで、労わるように主を見た。声のトーンも静かで穏やかだ。敬う感じ! こんな態度俺は取られたことなああい!! 『目覚めたら隣にマリアさんが居なかったので心配になって。それよりシャザール、まさか貴方また』  レオンの目が先程まで青白く放電していた側遣いの左手に釘付けになる。 『⋯⋯レオン、様』  シャザールが息を飲む。銀の眼差しに緊張が走る。 『⋯⋯違うの、レオンさま! あのね、あたしが眠れなくてお屋敷をお散歩してたらそこでバッタリ会って、お屋敷を案内してくれるって。それでこの肖像画一緒に見てたところ。ちょうどこの通りの燭台が切れてて暗いからシャザールが灯り灯してくれてたんだよ』  廊下に等間隔に灯っている燭台がいつの間にかひとつ消えている。 (え。さっきまでは付いてたよな。マリアだ。え。いつの間に!)  三人が屋敷の壁を見上げる。ちょうどそこの壁には大きな肖像画がかかっている。幼い頃俺が見上げてた肖像画だ。この映像ではまだ祖父と祖母らしい。 『え。そうだったんですね⋯⋯。ごめんなさい、シャザール。いつも忠節を尽くしてくれている貴方を疑うなんて』  レオンが申し訳なさそうにシャザールに詫びた。 『そんな⋯⋯、レオン様。どうか顔を上げて下さい』  シャザールがオロオロしてる。 『シャザールは、あれからとても良くしてくれてるよ。レオンさま』 『⋯⋯そうだったんですね! 二人が仲良くしてくれているのなら私は本当に嬉しいです』  レオンが心底ホッとしたように笑った。〝花がこぼれる様〟という表現がしっくりくる可憐さに俺はビックリしてしまう。  このレオンは俺の知る肖像画よりもずっと華奢で。まるで女の子みたいに儚く綺麗な美人さんだった。蒼く長い髪は俺と違ってクセがなくて、身動ぎする度にサラサラと音が聞こえてきそう。まるで発光するように淡く蒼い光を纏っている。 『⋯⋯マリア様は我が主レオン様の奥方様です。当然でございましょう』 『やだな。なんか恥ずかしいよ~』  うっ! にこやかな二人の顔がこわああい!!  ひとつ貸しだからね。分かっている。みたいな心の声が俺には聞こえてくる。  でも、レオンは全然気付いてない様子で。よかった、なんて嬉しそうにニコニコしている。  どうも過去一戦交えたのをレオンが諌めた事があったってとこだろう。 『レオン様。ご提案があります。お二人の肖像画に変えましょう。もう代替わりをした事ですし』 (なんと! シャザールはすぐに借りを返したいらしいぞ) 『わあ、素敵!!』 『でも⋯⋯、私はこんなに醜いので』  レオンが困ったように俯いて、か細い声でそう言った。 『ハア!? また言ってるの!? 誰がそんな事言ったの!! レオン様はキレイだって言ったでしょ。何度だって言ってあげる! 蒼い髪も蒼い瞳もあたしの大好きな人間界の青空みたいで、こんなにキレイなひとどこ探しても居ないんだから! 初めて会った時からずっと思ってた。綺麗で優しくていい匂いして、んもうダイッスキ!! レオンさまは世界中の誰よりも素敵なんだから』  マリアは力一杯熱弁してレオンにハグした。  レオンは、驚いた様に目を見開いて、やがて嬉しそうに頰を薔薇色に染めた。 『ありがとうございます。そんなこと言ってくれるのは世界中探してもマリアさんくらいですよ』  見つめ合う二人を、ニコニコしながらギリギリ奥歯を噛みしめる音が聞こえて来そうなシャザールに、俺はあわわわわとなりながら見守るしかない。 『では私、⋯⋯逞しく男らしく描いてもらいたいですっ』 『えっ。じゃあ、あたしもすんごい知的な美人に描いてもらおうっと!』 『では魔界一の画家を手配致しましょう⋯⋯』 『え? ナニ、どーいう意味?』  あはははは、なんて楽しそうな三人の笑い声で、ザザッと砂嵐になりどうやら上映は終了してしまったらしい。 §⋯⋯とまあ、こんな感じです⋯⋯§  丸眼鏡とジェントルマンなお髭に戻った鏡を見て、俺はほえーーとため息をついた。  なんかすごいもの見ちゃった!!  とりあえず俺の見ていた肖像画はだいぶ盛ってたことは分かった。  そして、シャザールの若い頃は大分トンがってたことも。今はアレ丸くなったんだなあ! 雷使いだなんて初耳だ。  後はハテナばかりで何から聞けばいいのかワカラナイ。  しっかし、マリアのが一枚上手な感じしたな。これならシッポ生えた俺を見てのシャザールのあの残念フェイスも頷ける。 「〝犬猿の仲〟なんて可愛いもんじゃなかった! 仲悪ぅーーい。笑える!!」 §⋯⋯そうですなあ。気付いてなかったのはレオン・サーシャ様くらいでしょうなあ。あの方はものすごく鈍かったので⋯⋯§  ちょ。面白い!  でも、あんなに仲悪いシャザールとマリアも、レオンの前ではニッコニコなのはレオンが大事で大好きだから。心配かけたくなくて、嫌われたくなくて。それはなんか伝わってきちゃった。 「ねえねえ! 魔王様も見せてよ。鏡割れるくらいイケメンかなー?」  俺はすっかり野次馬根性丸出しで、ワクワクしてそう言った。 §⋯⋯ハア!? 無理に決まってます。魔王様ですよ!? 本当に鏡割れますからね!⋯⋯§  そっか! ゼアスが無理なんだもん。そりゃそっか。残念。 「あ、そうだ。『呪い』ってなんのこと?」 §⋯⋯それはそうと、ロケットおっぱいはいかがでしたかな!? あれが理想の私のイチオシでございます⋯⋯§ 「あー、おっぱい。おっぱいね、ごめんごめん見てなかった」  それから魔法の鏡の、大きければ良い訳じゃないとか乳首の色がどうとか、乳輪の大きさにはこだわりたいとか、ホントどうでもいいおっぱい談義が再び始まり、俺は退屈過ぎて腕組みしてウロウロと室内を行ったり来たりする。  ハッ!? こうしちゃいられない。三時間しかないのに無駄にしてる場合じゃないよね! 「い、急がなきゃ! ゼアス、ゼアス」  俺は途端に我に返る。 「可愛いよね! 俺、ちゃんと可愛いよね!? そんなん言われたら気になるジャン。ちくびチェックしとこ。おお、ピンク! そりゃそうだよな。俺だもん」  乳輪小さめ、ぽちっと小粒な乳首。そして、色は薄いピンク。  俺は、黒のセクシー胸当てをポロンとめくって鏡に映して確認すると、よしよしと満足そうに頷いた。 §⋯⋯なんとうおおおおおおおお!! 生きててヨカッタァァアア――――!!⋯⋯§  魔法の鏡が号泣しながら叫んでるけど放置。  お次は身体つきも全身チェック。  細くて柔らかそうで、いつもより小柄で丸みを帯びた身体の線が、抱きしめたら折れそうだって言わせる感じのアレだった。さっき見たマリアにそっくり。  衣装もヘソ出しのミニスカにチェンジ。うん! ぷりんとした小尻がキュート!  バフンっと羽根とシッポを出してみる。  おお! なんか。エロ可愛い! サキュバスって感じ~。 「――コレ、イケるんじゃね!? ゼアスもオトせるんじゃね!?」 【ぎょーん♪ ぎょーん♪】  ぎょんちゃんも大絶賛。うん、イケる! §⋯⋯ハアッハアッ! 鏡割れるかと思いましたぞ!⋯⋯§  魔法の鏡が丸眼鏡を直しながら息を整えて言った。 「あは。それは困る」 §⋯⋯なんと、声まで可愛らしくなられて、サイッコーに眼福ですぞ。言葉遣いは残念無念。そして、ああ、これが三時間ほどでまたナインペタン。悪夢ですな⋯⋯§  なんか腹立つな。 「んじゃ、さっそく魔法の鏡! ゼアスの夢の中に入らせてっ」 §⋯⋯良いでしょう。その羽根を私の鏡面に押し当てて。遣い魔を離さないように⋯⋯§ 「うんうんっ!」 §⋯⋯ゼアス様が夢から醒めると自然と弾き出されてここに戻ってくる筈です⋯⋯§ 「りょーかあい! んじゃ。いって、きま――すッ!!」  こうして成り行きで絶世の美少女になった俺は、最愛のゼアスに会うべく、ぎょんちゃんと一緒に光を放つ鏡の中へと吸い込まれて行ったのだった。
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