約束の夏

3/42
前へ
/42ページ
次へ
図書館のドアが開くと、すっと汗が引く。 ビルの1階が児童書、2階、3階が一般書籍。4階に書庫と事務所と学習室、視聴覚室。5階がカルチャーセンターとカフェ。 エレベーターの前に点検中の札が掛かっている。 涼しくなったと思ったのに。と内階段を上るために児童書コーナーへ足を踏み入れた。 幼稚園に行くか行かないかくらいの小さな子供が案外大勢居た。 絵本を広げる母親の膝の上で、コクリコクリしている女の子が可愛い。 ん、わかる。心地良い。 図書館は結構好きだ。 人が大勢居ても、居なくても、しんとしてみんな、夫々の世界に居る。 読み切れないくらい高い本の山。 見たことも聞いたこともない世界を分入って登る。 或いは、何処までも広い本の海。 活字の波間をゆらゆら漂っていると、やがて眠くなる。 そんなことを考えながら、階段を上がり、受付で学習机の番号札を貰う。 貸出のパソコンの角に折り紙の蝉が一匹止まっていた。 カウンターの上に折り方のプリントと折り紙が置かれている。 僕の視線に気づいたのか、係の女の人が「1枚どうぞ」と微笑みながら言った。 「…はい」 僕は、恥ずかしくて小さな声で応えると、番号札と薄い水色の折り紙を1枚手にして机に向かった。 窓際のカウンターに45席。 No7。一つおきに三人座っている。 テスト期間中とか、夏休み中などはいつも混んでいて、入れ替え制だったりするのだか、今日は空いている。 番号札をケースに差す。7番…。 筆箱やノート、英語のテキストなどを取り出したが、折り紙が気になった。 両脇にはまだ誰も居ない。 折り方を見なくても蝉は折れた。 掌の中の水色の蝉…。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加