約束の夏

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顔が出て来て、殻に掴まりながら伸びをするみたいにお腹とお尻まで全身が殻から抜け出すと、折りたたみ傘をゆっくり開くように羽根が伸びて行く。白い薄緑の体。変身前とは別人のようだ。 変身した蝉は、空に飛び立つ瞬間をじっと待っていた。 「大ちゃん、何蝉?」 「ん、結構デカイからクマかミンミンだな」 「飛ぶとこみたいね」 「おお」 そうして、僕はいつの間に眠ってしまったのか、布団の上で目が覚めた。 大ちゃんの姿はなく、あれは夢だったのかしら? 庭に降りてみると、小さな穴が幾つも開いていて、夕べ見ていた木の幹には茶色の抜け殻がしっかり掴まっていた。 掌にそっと乗せてみた。 変身してもう何処かへ飛び立って行ったのだ。 カッコ良く飛んで行ったのか、見たかったなぁと思った。 その日は家の裏にある小学校に行って遊んだ。木造二階建ての小さな学校。 三角屋根に時計があって、絵本の学校とそっくりだといつも思った。 一つ上の高ちゃんが、素手で蝉を捕まえた。蝉は手足をバタバタさせていたけれど、すぐに小さな虫籠に入れられて、カブト虫のゼリーに近寄っていた。 「高ちゃん、なんて蝉?」 「クマかなぁ」 「蝉なのに熊って可笑しいね」 「だな」 素手で捕まえたのは凄いと思ったけど、夕べの蝉だったら、一寸可哀想な気がした。
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