約束の夏

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その日の夕方、部活から帰って来た大ちゃんが僕を呼んだ。 「学校の図書室で借りて来た。帰るまでに読んじゃえよ」 「うん、ありがと。大ちゃん、飛んでくとこ見た?」 「寝直したらもう居なかった」 「そうなんだ。あ、何蝉だった?」 「クマゼミだな。クマは朝早く飛んで行くから早起きしたのに、奴の方が先だったワ。残念」 「また羽化する?」 「ああ。そん時は起こしてやるから」 「うん、絶対ね。約束だよ」 「わかった」 大ちゃんが借りてくれた本は、文字が多くて、一寸難しそうだった。 夜、僕は1番に蚊帳の中に入って本を広げた。あの蝉の脱け殻は、おばさんに小さな空瓶を貰ってしまった。 幼虫が変身するのは凄く不思議。 雌は枯れ枝に卵を産むとポトリと落ちて死んでしまう。 卵は2ミリくらい。 卵のまま冬を越して、孵化する。 それから幼虫になって土の中に潜って行く。 それから、それから… ああ、大ちゃんに言うの忘れた。今日高ちゃんが素手で蝉捕まえたって…。 虫籠何処やったんだろう…。
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