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それから、時は流れ、時刻は夜十時を回った。バイトが終わる時間だ。俺は、店長にあいさつすると、自宅に帰った。俺の住むアパートまでは、自転車で五分といったところだ。
「ただいま」
「あ~、颯太お帰り」
奥の部屋から走ってきた金髪柴眼の少女こそ、俺の彼女であった。俺は夏夜(かや)と呼んでいるが、これは彼女の本名ではない。彼女が俺に最初語った名はミリーナであった。夏夜という呼称は、俺が勝手につけたものだ。人前で呼ぶ際に、日本人っぽい名前の方が都合がいいのである。
「夏夜、遅くなったな。じゃあ行くか」
「うん、いつも付き合ってもらってごめんね」
「気にするな」
俺は、バイトの荷物を玄関に置くと、夏夜の手を引いて再び夜の町へ繰り出した。これも彼女と出会ってから毎日の日課である。
行先は、近くにある公園だ。
俺たちが公園についたとき、俺は後方を確認しなかった自分の甘さを痛感することになった。
「お、おい、颯太。まさかその娘が彼女なのか」
その声に俺は驚いて振り返った。なんと、昼間喫茶店で振り切ったはずの優馬が驚きを隠せない表情で立っているではないか。
俺は思わず自分の後ろに夏夜を隠したが、すでに遅かった。
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