黄金の豚

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ひとりざくざくと緑の葉っぱを踏みしめながら山の中を進む。 日陰に入ると、近くに川が流れているせいか、雨が降ってもいないのに土は滑っていて、何人もの足跡が数センチ沈んでいる、だが豚らしき足跡はなく、人間の足跡ばかりがひっちゃかめっちゃかになっているだけ。 いつでもカメラを構えられるようにと右側に持ちつつ歩く、狭い道幅ですれ違う人たちが知り合いでもないのに、誰もが挨拶をしているのが何だか奇妙だった。 さらさらと聞こえる、川の音、風で囁く葉の音、マイナスイオンを浴びながら金持ちになれる豚を探す。 「いたぞ」 こそっとカメラを構える男が仲間に伝えているのが聞こえ、俺はフクロウもびっくりする首の回転率で振り向いたが、男のカメラは空を向けていて、その先には鳥が止まっていた。普通に鳥好きだった。 結果として黄金の豚は見つからなかった、高速道路に乗って4時間、時間と金を消費し得られたものは何もなかった。 ニュースでもネットでも情報が飛び交っているのに見つからない。 人々は信じ、祭り上げ、盛り上がったが次第に疑問が生じた。本当にそんなものが居るのか?疑惑が疑惑を呼びネット上では、本当にいるのか?裏切られた、はじめから嘘だと思っていた、俺はまだ信じているぞ!などという言葉が飛び交い、テレビでは真面目腐った顔で専門家たちが顔を突き合わせ、本当に黄金の豚は存在しているのかの議論を行っていた。 これは悪魔の証明のようなものなんじゃないかと思い始めた。白いカラスは存在しないということを証明するには全てのカラスを集めてみなければ分からないが、そんなことは不可能。 だが数週間後事件は大きく動くこととなった、黄金の豚を見て宝くじが当たったというAさんが再びメディアに姿を現したのだ。 「やーたまげた、ほんとたまげただよ!宝くじ当たったちゅうんは本当だよ。んでも何億も当たっちゃいねぇ、テービーショウだから面白くはなしちょくれつうもんで、冗談で話したらこれよ!」 テレビの前で俺は硬直した。 「がはは。笑が止まらんのって!」 「Aさんは嘘を吐いていたと言うことですか?」 マイクが向けられて、Aさんはんだんだと頷いた。 「とゆうてもちょっくら違うの、わしのこれは脚色いうもんだで、嘘をついたのはその後のしゅうらだ」 Aさんの発言により、これは売れる!と大量生産された黄金のブタチョキはひっくり返ってワゴンセールに並べられることとなり、SNSで嘘の拡散をした人たちは騙された人たちに笑い転げてみせ、黄金の豚ネタをやったお笑い芸人が何故かバッシングを受けた。 一攫千金を夢見た俺の貯金残高は、むやみに減っただけだった。 人の言葉を鵜呑みにすると痛い目に合う。
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