黄金の豚

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「やーびっくりよ!いづもは宝くじなんて買わんだよ?だけんども若い衆が買ってきちょくれ言うもんだから、ついでにワシも買ってみただよ。んだら!これよ!」 テレビ画面の右上には宝くじを高額当選したAさんとテロップが表示されていて、彼がすしざんまいの如く両手を広げて見せる前には札束が輝かしく存在していた。 音声が変えられて、顔にはモザイクがかかっているAさんではあったが札束とは彼はアンマッチだった。長年に愛用していると思われるシャツに股引だけの姿であったし、後ろに映る家は馬小屋のようだ。 「がはは。笑が止まらんのって!」 「Aさんの高額当選にはとあるものが関わっていると聞きました」 アナウンサーから向けられたマイクに、Aさんはんだんだと頷いた。 「黄金の豚だよ」 「はい?と言いますと?」 「わしゃあ見たんじゃ!光り輝く黄金の豚を!そっからじゃあ、宝くじは当たるし、商店街の福引き、レシートくじ、当たるのなんの!がはは。笑が止まらんのって!」 Aさんの言葉に俺は思った。 そうだ、豚を探そう。 黄金の豚を探そうと思ったのは勿論俺だけじゃなく、日本は今や空前の豚ブームになっていた。 黄金の豚貯金が飛ぶように売れ、黄金の豚を探せ!なんてツアーが組まれ、豚肉ブームが巻き起こり、太ったお笑い芸人がブーメラン型の海パン姿に全身を黄金で塗り固め「私が黄金の豚だ」と四つん這いになるネタが異常なほどに受けた。 そのうえ、Aさん以外にも黄金の豚のご利益に預かったというものが立て続けに現れ、話は具体的に信憑性を増していった。 そんななか俺は家電量販店に売られている一番安いカメラを購入し、山へやって来た。 春のぽかぽかした陽気に木々の間から木漏れ日が差し込んでいる、美しい景色が目の前に広がっているはずなのに、人で溢れかえっているせいで美しさが少しかすんで見えた。 如何にも山登りだという風亭の格好をした人たちも、望遠鏡を首から下げているバードの男性グループも、木々の上よりも地を歩く豚を探しているように見えて仕方がない。 彼らよりも先に見つけなければ、何せここは「Aさんが黄金の豚を見たらしい山」だ。 それが本当かは分からない、SNS上には様々な憶測が飛び交っている、そのなかでもこの山がいちばん信憑性が高いと噂が広まった。嘘か誠か知らないが、みなが口をそろえていうのだからきっとここなのだろうと判断した。
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