朔太郎、12歳

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 もうジジイのプリンを食べられない。  あの皺くちゃの顔も白い歯も、大きな笑い声にももう会えない。  俺は暫く失意のどん底にいた。でもそんな俺を引き上げてくれたのはあの「奈々子」だった。  奈々子は1人で店を開いた。毎日店に立ち、ひたすら1人で洋菓子を焼いた。奈々子は製菓の専門学校を出ていたらしい。それでも評判は落ちた。ジジイの味とは違う。  それでも、それでも奈々子は店に立ち続けた。あんなか細い彼女にできるはずないと思っていたのに。彼女は店にかじりつき、ひたすら作り続けた。  奈々子はジジイの店をたった1人で守ろうとしていた。  ジジイの声が頭に響く。  俺ができることは、変わらずそこに通い続けることだった。  俺がジジイのプリンに再び出会えたのは、それから3年後のことだった。
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