朔太郎、20歳

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 今日も変わらず俺は店の前に立っていた。そろそろ3時。奈々子がプリンをショーケースに並べる頃だろう。  手に封筒を握りしめる。ニット帽は家に置いてきた。奈々子とは正反対の色素の薄いふわふわの髪。これが気恥ずかしくて隠していたけど、もうしない。  今日はジジイと約束した日だから。  ジジイの声で頭の中をいっぱいにする。 「クソジジイ、約束を果たしにきたぞ」  古い木製のドアを押す。カランコロンとなるベルの音が、俺の背中を前へ押した。 「いらっしゃいま、せ……」  奈々子は瞳を丸くさせ、ぽかんとこちらを見ていた。俺は赤い顔を隠しもせず奈々子を見据える。  何度も深呼吸すると優しい焼き菓子の匂いで体が満たされていった。少しずつ緊張がほぐれていくような気がして、やっぱりお菓子の匂いは幸せの香りなんだと実感する。 「あの、ご注文は……」 「あの!!」 「は、はい!」 「俺、み、宮田……」 「宮田、朔太郎君、ですよね?」  え?  今度は俺がぽかんとしていると、奈々子は目を細めて微笑んだ。その向こうにクソジジイが見える。奈々子は本当にジジイの孫だったんだ。 「な、なんで……」 「お得意様のお顔知らないわけないじゃないですか。いつもニット帽で隠してたから顔を見るのは久しぶり……おじいちゃんが倒れる前日もここに来てくれてたでしょう?」  途端込み上げるものがあった。あの時奈々子はショーケースしか見ていないと思っていたのに、ちゃんと俺を見て、そして覚えてくれていたんだと。 「おじいちゃん、本当はもっと早くお店を閉めるつもりだったんです。でも朔太郎君がとても美味しそうにプリンを食べるから、魔法だって言ってくれたからやめられなかったって。おじいちゃんが最後まで大好きなお菓子作りを続けられたのは朔太郎君のおかげなんですよ」 「そ、そんな……俺」 「私がここで生き甲斐を見つけられたのも、おじいちゃんとずっと通ってくれた朔太郎君のおかげなんです。ずっとお礼を言いたかった」  奈々子はショーケースから1つプリンを取り出すと、俺の目の前まで歩いてきた。心臓が歩調に合わせてバクバクと弾む。彼女は宝物のようにプリンを両手で包み、俺に見せた。
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