朔太郎、10歳

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 きっと俺はいらない人間なんだ。  その日俺は些細な嫉妬が原因で家出を敢行していた。ランドセルに少しの着替えと貯金箱を詰め込んで。  駅前の商店街を通ると時計が3時を指していた。いつもなら家でおやつを食べている頃だがもういらない。ランドセルには給食でくすねてきたコッペパンが3つも入っている。  まずは腹ごしらえ。その後駅に向かい、とにかく遠くへ行こう。  親なんてクソ食らえだ。  俺は丁度いい裏路地を見つけて座り込み、パサパサに湿気ったコッペパンに噛り付いた。 「おい坊主、こんなとこで何してる」  びくりと肩が跳ねる。見上げれば茶色く焼け焦げた肌に白い髭を蓄えた1人の老人が、店舗の勝手口から顔を出しこちらを見ていた。手には猫用ミルクのパックがある。  まずい。  何がまずいのか分からないが、反射的に怒られてしまうと思った。慌ててコッペパンをポケットに詰め込み立ち上がる。  しかしすぐに皺くちゃの手が俺の腕を掴んだ。老人のくせに腕の筋肉が盛り上がっている。恐る恐る顔を上げると白い歯がキラリと光った。 「お前、宮田さんとこの子だな。まぁ逃げるなよ。別にとって食おうなんて思っちゃいない」  そういうと勝手口からパイプ椅子を2台引きずり出し、無理矢理俺を座らせた。  突然名字を言い当てられた俺の心臓はバクバクと脈打っていた。このままじゃ親に連絡されて怒られる。そしたら計画がパーだ。  そんな俺をよそに、老人は小さな椀にミルクを並々と入れる。するとどこからともなく子猫が3匹やってきた。  猫たちは互いを押し合いながらミルクにがっつく。それを眺め満足そうに目尻に皺を寄せると、老人はもう1つの椅子に腰かけた。 「で、こんな所で何してた」 「……」 「喧嘩か? それとも……家出か?」  ギクリと肩を震わせてしまい思わず顔をそらす。するとまた白い歯を覗かせ大口を開けて笑った。
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