第四章「拗らせ女子の苦悩」

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一応人目を気にして無視で応戦してた私だけど、ずっと付いてこられて流石に我慢の限界。ただでさえ感傷に浸ってたのに、何で一日の最後にアンタ達の相手しなくちゃいけないんだ。もう、最悪だ。 駅が見えてきた所で、私は端に寄って立ち止まる。ボロクソに言ってやろうと思って顔を上げた所で、 「亜緒、お待たせ」 物凄く聞き覚えのある声が耳に届いた。と同時に、後ろから肩にポンと手が置かれる。 私はただ、驚愕の表情でソイツを見つめた。有り得ない。アンタが、何でここに。 「すいません、俺この人と待ち合わせしてたんですけど。亜緒の、お友達ですか?」 穏やかに声をかけられたチャラ男達は、ヘラヘラしながらどこかへ去っていった。どうせまた、適当に女の子に声をかけるに違いない。どんだけ暇なんだか。 「困ってたみたいだったからつい声かけちゃったけど、大丈夫だった?」 ゆったりした耳に心地良い低音。 「……」 「亜緒?」 「…何でここに居るのよ。 ーー廉人」 正義のヒーロー気取りでナンパ男達から私を助けたのは、この世で最も私を傷付けた張本人、元カレの柏ノ木廉人(かしのき れんと)だった。 「いや、本当たまたま。この辺りで取引先の人とさっきまで飲んでて。駅ここだって言うから、見送りしてたんだ」 相変わらずのスラっとした長身に夜でもヨレ一つないピシッとしたスーツ。爽やかな短髪から覗く大きめの瞳とすっきりした鼻梁。大きめの薄い唇は、カサつき一つない。 別れてから、一ヶ月も経ってない。けど目の前のこの男を随分久々に見たような、不思議な感覚。いや、ていうかもう一生見たくなかったのに。 「亜緒は、こんな時間まで仕事?ではないよね。“Douce”で飲んでたの?」
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