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「この間も言ったけど、私セフレとかそういうのは…」
「何もしない。絶対、何もしないから」
私の手に絡めた指にキュッ、と力を込める青空君。
「え、いやそういうことじゃなくて…」
冷静に考えたら、青空君はちょっと…いや大分変わってる。そんな見た目なら、一言も発さなくても女の方から「抱いてください」って寄ってくる。わざわざ私とホテル行かなくたって、きっと選びたい放題の筈なのに。
「亜緒さんを、一人にしたくない」
また少し、手に力が込められる。
「俺が居たって意味ないのは、分かってる。だからこれは、俺のワガママ」
「……」
「お願い、聞いてくれる?」
「……」
気付けば、私はコクンと頷いていた。無表情だと思ってた青空君の顔は少しだけ眉が下がってて、私を心配してくれてるんだって思ったら胸がキュッて苦しくなった。
私は、青空君を利用してる。青空君が困った時に手を差し伸べなかったくせに、自分がこんな状況の時には都合良く頼るなんて。
「…私って、サイテー」
ポツリ、そう洩らせば。
「最低でも良いよ」
優しい声色が、降ってくる。
人を好きになれないと言っていた青空君は、大した付き合いでもない惨めで薄情な女にまで、優しいらしい。
けどそれって、考えてみれば残酷。青空君はこんなに優しくて、見た目も言うことなしで、ならほとんどの女はきっと青空君を好きにならないなんて無理で。
好きになれば、思いを伝えれば、青空君は手からスルッとすり抜けて消えてしまう。それなら最初から、優しくなんてしなければ良いのに。
青空君もまた、最低。
その手を掴む私は、もっと最低。
「亜緒さん、行こ?」
「…うん」
酔って正気をなくしてたあの時とは違う。私は自分で、青空君を利用してるって分かってて。けど今は、一人になりたくない。
青空君はそれ以上何も言わずに、けど私の手は握ったまま。私もその手を、自分から離そうとはしなかった。
大切なことは、何も知らない。分かるのは、青空君の手はあったかいってことだけだ。
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