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第一章 新たな出会い
一、漆黒の朔
あれから何日、何年経っただろう。もう彼女には心も名前もない。あの時から彼女の人生はすべて変わってしまった。彼女は復讐をするためだけに生きてきた。
文久三年(一九六三年)、彼女は暗殺専門の仕事をして生活をしていた。今日も淡々と仕事をこなしていく。目撃者はもちろんなし。京の町ではこう呼ばれている。
「漆黒の朔」
なぜ、彼女がこう呼ばれているかというと、それは朔の日、つまり新月の日に仕事をこなしているからだ。
あの時も朔の日だった。
しかし最近は依頼が多くて、朔の日以外も仕事をしている。この選択が後の朔の人生に大きな変化をもたらした。
ほら、今日も古びた祠に人が来る。
「私は、はつと申します。私の家は小さな食事処をしています。ある日、私は父様と母様を殺されてしまいました。お願いです、どうか父様と母様を殺した奴らに仇をうってください。」
お初はそう言って、祠に十五文ほどを置き、去っていった。
まただ、最近この辺りでは若い娘のいる家ばかりを狙っては、両親を殺していく。そして後日一人になった娘を攫(さら)うのだ。今夜あたりにでもあの娘を攫いに来るだろう。そやつらが今までの犯人に違いない。
「ふぅ」
朔は溜息をついた。なぜなら今日は満月だからだ。満月なので、灯りがなくても充分に見える。せめて雲が月を隠してくれるのを祈るしかない。
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