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「 もしママが居たとしても僕はお兄ちゃんを押していて、お兄ちゃんと溺れていたと思う。
だからママは悪くないよ、僕が悪いんだよ。」
総十郎が言うと私はなぜかものすごい怒りがこみ上げてきた。怒りに任せて
隣の部屋にいる夫のところへ行くと、
「あなたはどこに居たの?」
と言ってしまった。
夫は私よりもとても大きい人なのにロッキングチェアーの上に丸まって小さくなっている。
怒られることがわかっている小さな子犬のような目をして、
「僕はプールの側にいたよ。」
と、小さな声で言った。
( 側にいたって見ていないなら、そこにいないのと同じじゃないの!)
と声を荒げて言おうとした時、夫の向こうに美しい海と空が見えた。
寄せては返す波の上でサーフィンに興じる人々が沢山いる。
(この美しいハワイに家族を連れて来てくれる為にこの人は毎日一生懸命に働いてくれたんだわ。
プールサイドでしばらくまどろんだ時にたまたま、こうなった。
夫を責める資格は私には無い。
だって私はそこにすらいない。
私は買い物をしていたんですもの。)
私は何も言えずにその場に座りこんだ。
港ちゃんが側に来て、
「 僕達を助けてくれた人は5歳くらいの女の子を左手で抱っこしたまま右手一本で溺れてる子供を引き上げたんだよ。
すごいよね。
すごい力があって、偏見のない優しい人だ。
ものすごい筋肉モリモリのムキムキマッチョだった。
ママの頭の上にいつもいる人にそっくりな人だったよ。」
「 うん、そうだった。
僕もそれを言おうと思ってたの。
ママの頭の上にいる人に良く似ていると思った。
そっくりな人だった。
腕の毛が全部金色に輝いていた。
身体中の毛が全部金色に輝くんだよ。
金色の手が僕をつかんでくれた。」
「 そうだったのね。
私その人達にお礼が言いたいわ。」
「 お兄ちゃんは、ちゃんと言っていたよ。
僕がパパを連れて行くと皆いなくなったけどね。」
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