プロローグ

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「起きるでござる。翡翠(ひすい)。」  駅の発車メロディのように、妙に印象に残る声が頭に響く。 「…3時。」  そろそろ紅茶をいれなくては。ゆっくりと重たい身体を起こし、戸棚からユニオンジャックが描かれた小さな缶を取る。 「今日はあーるぐれいの日でござるよ。」  小さなハリネズミが言い慣れない様子でアールグレイと言っているのが可愛らしくて、思わず笑ってしまう。 「何故に笑うのでござるか?」 「…今日はダージリン。」 「ああ、そうでござったか。」  咄嗟に口から出たデタラメに、ハリネズミは納得した様子を見せる。それもまたおかしくて、笑ってしまいそうになる。  ペラペラと話し続けるハリネズミをよそに、紅茶の準備を進める。  冷えた艶のいいタルトタタンを切り分けて、皿に乗せる。  ダージリンの香りが、店内にふわっと広がった時、チリンチリンとドアベルが音を立てた。 「いらっしゃいませ。ようこそherissonへ。」
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