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「こんにちは。」
ドアベルの音と共に聞こえてきたのは、優しいテノールであった。細身で高身長の大学生くらいの男性だ。紺色のラインが入った白いセーターに黒のスキニー、学生風の爽やかな格好をしている。
「いらっしゃいませ。」
翡翠さんがそのお客をカウンターに案内する。
「何か、心の落ち着く飲み物はありませんか?」
男性は翡翠さんに問いかける。
「それなら、カモミールのハーブティーはいかがですか?」
翡翠さんが優しい声音で言う。
「いいですね。」
「タルトタタンもどうですか?ここのはとても美味しいです。」
僕は勇気を出して話しかける。直感で分かったのだ。この人は僕の小説の登場人物だと。
男性は驚いたようにこちらを見た。アーモンド形のヘーゼルの目に見つめられる。この人はマスクをしていても俳優のように顔が整っているのがわかった。
「そうなんですね。じゃあ、お願いしようかな。」
男性が笑うと、大きな涙袋ができた。
「かしこまりました。」
翡翠さんが言う。なんだか絵になる二人だと思うと、スッと胸が冷えた。
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