第一章 人ヶ島

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 予期せぬ闖入者の出現で、黒ひげと眼帯も諍いの腕を休める。 「人ヶ島の伝説は、紛れもない本物じゃ」  その場の視線を一身に受け、学者崩れは得意げに話を始める。  人ヶ島。「一人ヶ島」と呼ばれていた事もある。  大昔は、名も無き島で、名も無き人々が平和に暮らしていた。  あるとき、人外(じんがい)の技を持った一族が島にやって来た。その一族は猜疑心が非常に強く、 お互いを呪い、島の人々を巻き込んでの(いくさ)になった。  そして、只一人を残して島の人々は根絶やしになってしもうたのじゃ。  その生き残った男の名はエジエル。  エジエルは、人外の力で城を築き、虚ろな鎧に精気を吹き込んで下僕となし、只一人で その島に住み続けた。これが「一人ヶ島」の由来じゃ。  しかし、人外の力を持ってしても、寄る年波には勝てぬ。エジエルの肉体は年々歳々と 衰えていった。  そこで、エジエルは己が魂を、年若き者の肉体に移し替える術を編み出した。  鎧の下僕に命じて船を出し、代わりの肉体となる子供を探し出して、連れ去ってくる。  これが、幽霊船と呼ばれている物じゃ。  こうして、命を永らえたエジエルは、体をとっかえひっかえし、既に齢300を数える までになったと聞く。
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