第二章 換りの子

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 幽霊船の口の中は、ほのかに光っていた。  俺の乗った小舟に、6体のブジンが取り付く。  ブジンのうちの一体は胸の鎧が欠けていた。兜の一部に穴が開いているブジンもいる。  穴から甲冑の内側が垣間見えるが、そこに肉体は存在せず、青白い霞みのような物体が 蠢いているだけだった。  ブジンたちは、寄ってたかった俺を担ぎ上げ、階段を昇って上部甲板へと運んで行く。  甲板の後端に小屋が建っている。  そこは四方を格子で囲まれた檻房で、ブジンたちは俺をその檻の中に投げ込んだ。 「イってーなぁ。俺は換りの子だぞ! もっと丁寧に扱え!」  と毒づく。  すると、一体のブジンが壁にかけてあった鎖状の器具を取り、俺の方に向かってきた。  拙い! 余計な事を言った。 「あっ、ゴメン、今の無し」  と身構えたが、ブジンは俺の足に枷を嵌めただけだった。  その後、ブジンたちは檻房の扉に鍵をかけ、散り散りに何処かに歩いて行った。  うずくまったままで辺りの様子を伺う。  檻の四方には、看守役のブジンが腰に剣を帯びて立っている。  他にも、甲板の彼方此方にブジンが立っているが、それぞれの場所で微動だにしない。  ここまで手荒に運ばれたが、クズレから渡されたナイフは、離さずに済んだ。  見張りのブジン達に気取られぬように、ナイフで縄目を切りにかかる。  身をよじり、汗だくになって手の戒めを解いた。ブジン達も気づいていない。  小刀を両手に持ち替え、身体、足の縄目を解き放つ。  次は足枷だ。  簡単には外れぬだろう。そう思っていたのに、ナイフで幾度かツツいたら、案外簡単に 壊れてくれた。  クズレの話では、エジエルは300歳の齢を数えるという。ということは、この足枷も 300年前の物。よく見れば、錆びまみれで、そこかしこがガタついている。  ブジンどもも、それを修理して使う処ろまで頭が回らないのだろう。というか、元々、 奴らの頭は空っぽなのだ。存外、幽霊船から抜け出すのは、た易いかもしれない。そんな 気がしてきた。
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