第二章 換りの子

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 脱出の機会は今しかない。そう、心に決めた。  足枷と牢の鍵は夜明け前に既に壊してある。  よし決行!  と、その時。俺は、フードの子の事を思い出した。  隣の檻を見やる。  フードの子は、昨夜と同じポーズのままで蹲っている。  俺は、鉄格子にとりつき 「おい。お前も一緒に逃げよう」と小声で声をかけた。  フードの子は無反応だ。  寝ているのか? それとも、言葉の意味が分からないのか? 「ここに居ちゃ駄目だ。俺と一緒に来い」  もう一度声をかけたが、やはり反応はない。  チっ。思わず舌打ちがでた。 「俺は逃げようと誘ったからな」と自分の心に言い訳をする。  船から出るためには、最初のダッシュが肝心だ。行動を起こすために身構える。  だが、何故だか、フードの子の事が気にかかる。  俺は、持っていたナイフを床に置き、フードの子の方に滑らせる。  ナイフはクルクル回りながら、フードの子の腰の辺りにぶつかって止まった。 「おい。逃げたくなったら、それを使え」と声をかける。  その意味が理解できないのか、フードの子はナイフをじっと見ていたが、やがてそれを 手に取り、懐の中にしまい込んだ。 「くそっ! もう知らん」誰にともなく罵声を浴びせる。
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