第三章 人外の城

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 着水までの一瞬が、永遠の時間のように感じられる。  水面へ、早く。と心の中で叫ぶ。  バッシャーン。  大きな衝撃とともに海中に飛び込む。その勢いで、海面から深く潜り込んだ。  潜水したまま泳いで距離を稼ぐ。顔を出した処をブジン達に狙い撃ちされない用心だ。  息の続く限り海面下で進み、一瞬、海上で息継ぎをして再び潜る。  これを繰り返して、船から距離を取る。  もう充分だろう頃合いで海面に顔を出して、船の方を振り返る。  投げ槍や飛び道具で攻撃されるかと案じていたが、それはなかった。  幽霊船は、俺の存在を忘れたように遠ざかっていく。  助かった。  俺は、人ヶ島の砂浜を目指して泳ぎ続けた。    *****  離岸流に幾度も押し戻されながら、何とか砂浜にたどり着いた。  くたくたの体を休ませたいところだが、砂浜で伸びている訳にはいかない。急いで身を 隠さねば……。砂浜の奥にある岩の影に身を隠し、漸くそこで一息つくことができた。  心が落ち着いて来ると、先ほどの幽霊船での光景が瞼の裏に蘇ってくる。  あの時、何が起こったんだろう。  ブジンどもの刃の前で俺の命が風前の灯火だった時、檻の中の子供の頭が光り、それと 同時に、ブジン達の動きが止まった。そのお陰で俺は助かった。  あれは何だったんだろう。  人買い船にいたクズレの話では、換りの子は、有り余るエルムで髪が光り輝いていると いう。やはり、あの囚われの子は換りの子なのだろう。  だけど、どうしてあの瞬間に、光を放ち始めたのだろう。まるで、ブジンの注意を引き 付けるように……。  ひょっとして、換りの子は俺を助けようとしたのか?  会って確かめれば良いのだろうが、言葉が通じない上に、今はブジン達の虜だ。とても 会いになど行ける筈がない。
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