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とにかく、今は自分が逃げ延びる事が一番だ。
そう、思い直して、頭の中から換りの子の影を追い払う。
まずは、この浜辺から離れなくてはならない。
ブジン達は、俺がこの浜辺に向かっていたのは見ている筈だ。きっと捜索の手が伸びて
来るに違いない。
砂浜は三方を断崖、一方を海に囲まれてる。その北の断崖に、道のように崖が削られて
いる場所がある。
しめた。
その削れ目を足掛かりに、崖を登り始める。
登り始めて気づいたが、そこは正に道だったのだ。300年の歳月を経て、浸食されて
いるが、嘗ては海岸への通り道だったに違いない。
道を登りきると城壁の根元についた。
城壁は島全体を取り囲むように建てられている。
城壁には階段がある。それを登って、城壁の上に出る。
そこは、島全体を一望できる場所だった。
城壁の内側には、町があった。幾層もの家並、縦横に走る道、市場と思しき広場。
だが、その全てが朽ち果て草生しており、人の姿は何処にも見えない。
300年前、ここは普通の人々が暮らす、平和な島だったんだ。
瞼の裏に、自分の故郷の風景が浮かび、胸が熱くなった。
いかん。感傷に浸っている暇はない。早く、身を隠さないと。
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