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東を見れば、城壁は三層になった石造りの城に繋がっている。
その城の向こう側に、船の帆柱が見えた。幽霊船だ。多分、港があるに違いない。
城の奥には小山があり、その中腹にも城が建っている。一部が大きく海側に迫り出した
奇妙な形の城だ。その城からは紫色の陽炎が立っている。まるで、暗闇の衣を纏っている
ようだ。あれが、エジエルの居城なのに違いない。
西を見れば。城壁は途中で崩れ、木々が生い茂る密林へと同化している。
身を隠すなら、西に進むしかない。
当然の如く、俺は西に向かって歩き始めた。
けれども、その歩みは段々と勢いを失くし。やがて、振り子が止まるように、その場で
動かなくなる。
このままで良いのか。あの囚われの子を見殺しにして良いのか。
あの子は俺を助けてくれた。それなのに、我が身の大事さで、命の恩人を見捨てようと
している。
卑怯者、恥知らず。意気地なし。自分で自分を呪う。
そうだ、一度無くしかけた命じゃないか。もう怖いものはない。
俺は、勇気を振り絞り、進路を東に変えて歩き出す。
だが、その勇気も、歩みを進める度に萎んでいく。
一歩進めば一息分。二歩進めば二息分の勇気が、肺腑から逃げ去っていく。
この俺に何が出来るだろう。
あの子は髪を輝かせ、ブジンの注意を逸らすだけの力を持っている。
あの子は、換りの子に選ばれるだけの特別なエルムを秘めている。
それに引き換え、俺はどうだ。
手先が多少器用なのと、逃げ足が速いくらいしか取り柄がない。
俺が行っても、あの子を助けられる訳がない。
ブジンに捕まって、エジエルの晩餐の材料になるのが関の山だ。
すまない、こんな駄目な俺を赦してくれ。
心の中で、換りの子に詫びをしつつ、俺は一目散に西へ向かって走り始めた。
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