第三章 人外の城

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 視力が回復した時、塔の前に、紫色の陽炎を背負った人影が立っていた。  スラリと背が高く、痩せぎすで、体系から見ると女性のように見える。  長いドレスを身につけ、蛇の鎌首の如き髪の毛が、幾本も天に向かって吠えている。  ドレスも、そして髪の毛も光を吸い込む程に真っ黒で、まるで闇色の光芒を発している ようだ。  あれが、人外のエジエルなのだろうか。人買い船のクズレの言では、エジエルは男だと いうことになっていたが……。  そうか。換りの子が女だった場合。エジエルが換りの子の体に入ると性別が変わる事に なるんだ、きっと。    エジエルが空中を漂うように歩き出す。まるで幽霊のようだ。  檻の前にエジエルが立つと、手を触れていないのに、檻の扉がひとりでに開く。  浮揚する足取りでエジエルが檻の中に入り、蹲っている子供に手をかける。  次の瞬間、エジエルはハッとしたように手を引っ込める。  エジエルが再び子供の体に手を伸ばし、その体を持ち上げると、蹲る子供と思えた物は 只のボロ布の塊だった。  俺は、直ぐに状況が飲み込めた。  換りの子は逃げたんだ。
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