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視力が回復した時、塔の前に、紫色の陽炎を背負った人影が立っていた。
スラリと背が高く、痩せぎすで、体系から見ると女性のように見える。
長いドレスを身につけ、蛇の鎌首の如き髪の毛が、幾本も天に向かって吠えている。
ドレスも、そして髪の毛も光を吸い込む程に真っ黒で、まるで闇色の光芒を発している
ようだ。
あれが、人外のエジエルなのだろうか。人買い船のクズレの言では、エジエルは男だと
いうことになっていたが……。
そうか。換りの子が女だった場合。エジエルが換りの子の体に入ると性別が変わる事に
なるんだ、きっと。
エジエルが空中を漂うように歩き出す。まるで幽霊のようだ。
檻の前にエジエルが立つと、手を触れていないのに、檻の扉がひとりでに開く。
浮揚する足取りでエジエルが檻の中に入り、蹲っている子供に手をかける。
次の瞬間、エジエルはハッとしたように手を引っ込める。
エジエルが再び子供の体に手を伸ばし、その体を持ち上げると、蹲る子供と思えた物は
只のボロ布の塊だった。
俺は、直ぐに状況が飲み込めた。
換りの子は逃げたんだ。
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